南森まち

るろうに剣心の南森まちのレビュー・感想・評価

るろうに剣心(2012年製作の映画)
3.6
明治11年、人斬り抜刀斎と名乗る者が東京で辻斬り騒ぎを起こしていた。そんな中、町道場の女主人は、禁止された刀を腰に差した妙な流れ者に出会う…というお話。

原作通りだと長尺になってしまう所を大胆にアレンジして、キリがいいところまで進めておりとても良く出来ていると思う。後に活躍する仲間たちもきちんと出している。思い切っていくつかのエピソードを融合しているのに、重要な会話は違和感なくすべて消化している。

ただ映画としてはキツいところが多い。そもそもテーマである「剣心は何に絶望して流浪しているのか」がこの映画内では謎のまま。
これは原作終盤の要素だから、映画をシリーズ物にする時点でこの問題が起きてしまうのは確定しているから仕方ない…とはいえ映画として仕方ないで済ませていいのだろうか。
シリーズ映画は、公開の間があくために前回の予習をしないと忘れていたり、つじつまを合わせるために「まだ重要じゃない人」を登場させたりするので苦手だったが、本作のように「根幹のテーマを語れない」のは結構致命的だと思う。
「まだ重要じゃない人物」といえば、原田左之助は活躍シーンがあったものの明神弥彦は本当にただの背景だった。初見の人から見ればあの少年は何のためにでたんだ?となるだろう。…と思ったけど、漫画でも全編にわたってほぼそんな役回りだったわ。

また、後半はほぼアクションが占めるのだが、これがまあなんともいえない出来。
殺陣は練習やハイスピード撮影等を使ってうまくやっている。しかし、ジャンプしたり飛び降りたりする特撮シーンはすべて違和感がある。
しゃがみ込む予備動作もなく棒立ちからビヨ〜ンとジャンプして天井近くまで飛んだり、二階以上の高さから飛び降りるのに着地時にしゃがみ込まなかったり違和感バリバリ。日本の時代劇の演出ってこんなもんだっけ?スタントを使わず、まだ稚拙だった技術を使った結果なのだろうか。非常に残念。

それと、今作の重要キャラの藤堂刃衛の心理、その絶望をもっと描いてほしかった。世の中の変化についていけない敵達の怒りがこの作品の面白さなのに、なんだか奇妙な殺人マニアみたいになっていた。
逆に前座の実際の格闘家(のちに参院議員)との立ち回りはいらなかったと思う。素手で戦うので迫力もないし、長時間あのシーンに費やす必要性もサッパリ分からない。ほとんどセリフもないし、ナレ死で良いレベルのキャラクターだった。

また、冒頭の戊辰戦争がこのシリーズの背景の根幹となる重要シーンなのに、誰がどちら側に与してたか非常に分かりづらいと感じた。もちろん元読者にはわかるんだけど。
あそこにいたのが誰で、後の誰にあたるかなんて、字幕でも見ないとさっぱりわからないだろう。

でも、21世紀もチャンバラ映画を見られるのは楽しいし、原作が良く出来ているので、続きも楽しみになってしまう心理も分かりますね。