りっく

最強のふたりのりっくのレビュー・感想・評価

最強のふたり(2011年製作の映画)
3.8
映画冒頭、助手席に白人の中年男を乗せ、黒人青年が夜の街を猛スピードで疾走させる。
ここでは「身障者」という武器を使って、警察を欺く場面である。
けれども、全く不快でもなく、偽善的だとも感じない。
このオープニングは、デリケートな問題をユーモラスに描くという、本作における「バランス感覚」を見事に提示している。

その後、終盤に同じ場面がもう一度繰り返される。
同じ光景を観ているのに感じるものは、不思議と冒頭とは全く違うものである。
他の介護人は不可能だった笑顔を、ドリスはフィリップに取り戻させる。
彼らの信頼関係や絆を、2人を一度引き離してから、再び顔を合わせることによって説得力を持つものにしている。
同じシーンにもかかわらず、全く違う意味を持たせているという一点だけでも、優れた映画と言えるのではないか。

本作はドリスという「天使」が、そこに居るだけで皆を幸せにしていく。
あるいは、笑顔を伝播させていく能力を持っている。
飾り立てない人間の魅力に満ち満ちているからこそ、全く正反対の境遇で生きていた人々に影響を与え、同時に彼らからも影響を受けることで、信頼関係を築いていく。
相互に影響を及ぼし合いながら、人生に彩りを添えていく過程は観ていて実に愉快だ。
特に各々の感性が価値を決定するという芸術に対しての皮肉が利いたユーモアが面白い。

だが、ドリスは現実と隣り合わせの「天使」である。
序盤で手際よく描かれた彼を取り巻く環境は、フィリップとはあまりにも違いすぎる。
フィリップの前ではあれほど笑顔を見せている彼が、自らが住む世界では決して笑顔を見せない。
彼の対照的な表情が、いかに現実が過酷なものかを浮かび上がらせる。

しかし、オープニングでもエンディングでも本作が「実話」だという点を強調しているのならば、その現実をもう少し描く必要性があったのではないか。
特に「金」にまつわる描写が不十分なのが気になる。
フィリップがいかにして大富豪になったのか。
あるいは、給料をドリスはどのように使っているのか。
住む世界が違うことで2人が離れ離れになる展開が用意されているのであれば、「財力」は避けては通れない要素だと思う。
りっく

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