ユカートマン

未来世紀ブラジルのユカートマンのレビュー・感想・評価

未来世紀ブラジル(1985年製作の映画)
4.3
多発するテロを防ぐために情報統制社会となってしまった架空の国が舞台の資本主義ディストピア映画。SF映画のレポートを書くために鑑賞。オーウェルも星新一も大好きな私には堪らない内容。暖房の修理をするだけでも役所の人間以外(民間業者など)は許されない超管理社会に生きる主人公は超裕福な家の倅だし公務員だし文句なしの生活ようにみえるがどこか冴えず社会から疎外されているようにも感じる。自動的にコーヒーと朝食がセットされ、洋服まで出てくる朝のシーンが便利さを追求するあまり精神的な豊かさがなくなってしまった現代の日本のようだった。自動で開け閉めする便座やウォシュレット、日本のトイレは未来をいきすぎてると外国人が驚くのも無理はない。ハッピーエンドかバッドエンドか見る人に委ねるエンディングも好き。この絶望的な謎エンディングも客足を伸ばすために配給会社がハッピーエンドになるよう勝手にカットしたらしく(私が観たのは2時間越えのオリジナル版)、金のためには作家の意向をも無視する資本主義の総本山アメリカのクソさがここで露わに。資本主義批判の映画でこのエピソードは皮肉すぎる。監督はコメディ出身らしく、犬のお尻の穴にシールが貼ってあったり子どもがクリスマスにクレジットカードが欲しいって言ったり細かいところで笑わせてくる。SFの中にコメディ、ラブストーリー、アクション、社会風刺、映画のすべての要素が入っていて、政治的な話題を抜きにしたら小学生でも楽しめそうな強烈すぎる視覚イメージも圧巻。とにかく完成度が高い映画だった。サイバーパンク映画なのにコンピューターの存在感は薄くてアナログな世界観が本当に可愛かった。
あと映画の中ではテロを防ぐためって大義名分を掲げて政府が好き勝手しまくってるけど、真珠湾攻撃という名の奇襲攻撃(旧日本軍によるテロ行為)や9.11を未然に防げなかったことを反省して NSAという機関で情報収集やってますよ〜とスノーデン氏がバラしちゃいましたね。31年前の映画だけど毎日のようにヨーロッパや中東でテロが起きる2016年を予見していたかのような内容で、これからテロ対策のためにこの映画のような社会が到来するのかと思うと鳥肌が立つ。

こんな映画が好きって言ったら間違い無く電波って言われそうなので人には黙っておくけど、人生のベスト10本にランクインするほど素晴らしい映画だった。大好きすぎて長くなってしまったので上の文を要約すると、主人公のイギリス人のおっさんが情けなくて可愛かった、という旨です。
ユカートマン

ユカートマン