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HANA-BIのtoriten45のレビュー・感想・評価

HANA-BI(1997年製作の映画)
4.1
全ては、ラストシーンに集約されているように感じられました。青空が広がる人気のない砂浜。その景色はただ美しいだけでなく、どこか物悲しさが漂う。この場所にたどり着いたのは、病気で余命わずかな妻(岸本加世子)を連れた元刑事の夫(ビートたけし)。この砂浜は、人生の終わりと再生が交錯する象徴のように映りました。

このラストシーンの美しさを高めるためだけに、北野武は、幾つものエピソード上手に積み重ねていたのかもしれませんね。

夫は、警察やヤクザに追い詰められ、逃げ場を失ったかのようにも見えますが、敢えてこの孤独な場所を選んでやって来たとも言えそう。静寂に包まれた砂浜は、すべての騒動から解放される場所でもあり、澄み渡る青空は二人の状況をより一層切なく映し出しています。久石譲の劇伴がその物悲しさをさらに深め、映像と音楽が一体となり、北野武ならではの映像詩へと昇華させているように感じました。

セリフは控えめで、説明的な演出もほとんどありません。その沈黙と間の中に、北野武らしい深みが宿っていて、感情や思いがゆっくりと染み込んでいきます。

静かで美しく、それでいて死と生の狭間を見つめたこの作品。すべてのエピソードが、あのラストシーンに帰結するように感じられました。

北野武の映画にしかできない、心に残る一瞬を描いた『HANA-BI』は、まさに映像詩と言える作品なのでしょうね。

ちなみにラストシーンの「生」を象徴するイメージとして登場した少女は北野武の娘さんなのだとか。びっくり。
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