べるーし

HANA-BIのべるーしのレビュー・感想・評価

HANA-BI(1997年製作の映画)
5.0
鬼才・北野武⑧
世界よ、これが映画だ!金獅子賞受賞作。

悪徳刑事の西は余命僅かの妻を旅行へ連れて行く金を得る為に銀行強盗する。そこへヤクザと警察が追いにやって来るが...というストーリー。


満開な花は生きている証。凧が上がらなくとも、花火は上がる。簡単な言葉では語れぬ、北野映画特有の不器用な作風は今作の主人公・西の妻への野生的な愛と表裏一体。作品自体もまた常に銃口を向けられている様な乾いた恐怖感が隣合わせで、暴力的でない場面も全て奥深い。

特に中盤での銀行強盗シーン。あんなに静かで一切の説明がないシンプルな場面はかつて無く強烈。それでいてひしひしと感じるあの乾いた恐怖感。黒澤明が今作をベスト邦画の一つとして挙げた理由は恐らくこの場面からなのではなかろうか。

社会的に死ぬ故・大杉漣の役には哀愁がね...今作がまたしても深く刺さったのはそこです。だからひたすら絵を描くその姿には物質的でない死を味わっても必死に生き抜くことの大切さを感じられますね。

それを彩る久石譲のサントラ。名曲のオンパレードで、これに関して言えばキッズ・リターンより好きです。というよりもこれまで聴いてきた映画音楽の中でもトップクラスの美しさ。こんなに北野映画の雰囲気に合う作曲家は彼だけだと思います。

大杉漣の役に限らず、哀愁を漂わせながら妻への愛を貫く西は北野映画自体を象徴しているかのよう。北野武の死生観等にせよユーモアにせよそれらが全て詰まったキャラクターなんですよね。

登場人物へのこだわりも去ることながら、美しいカメラワークやキタノブルーは健在。ここに世界で評価される邦画の底力を観た。必見の名作。


余談:トランプで遊ぶ場面が今作一番のお気に入り。ソナチネ然り、北野映画は素朴な遊びの場面が最高です。
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