青二歳

モチモチの木の青二歳のレビュー・感想・評価

モチモチの木(1972年製作の映画)
5.0
“モチモチの木”を浄瑠璃で読み上げる異色作。見事。まさに人形浄瑠璃。岡本忠成の柔らかいパペットに浄瑠璃がこんな似合うとは!
(現在の画像が正)
岡本忠成といえばNHK“みんなのうた”のイメージが強いけど、星新一や落語もアニメ化したりしている方ですからね。いや…しかしまさか“モチモチの木”を浄瑠璃にするとは…脱帽です。

おはなしはご存知“モチモチの木”。闇夜が怖くておしっこに行けない少年・豆太はいつもおじいちゃんについて来てもらっていた。そんな臆病な豆太が勇気を得るおはなし。
もう三味と浄瑠璃のすべてがアニメーションと合って言うことなし。素晴らしい。文楽なり浄瑠璃なり三味線なり、そちらに耳が馴染んでいる方はなお楽しめると思います。オチもかわいいし。

川本喜八郎が能楽の世界に近づいたアニメーターだとすれば岡本忠成のアニメは大衆芸能と近しい。彼のアニメーションの中に溢れる音は、浄瑠璃などかつての日本の町中から聞こえた三味線や鳴り物である。また取り扱う素材も、NHK“みんなのうた”や伝承、落語など、口々に歌われ語られる口語の世界と親和性の高いものが多い。
岡本忠成の音楽性は、庶民が親しむ音曲に加え、伝承や落語など語り部や噺家によって語り継がれる口語のふたつが合わさっている。もちろんそれには方言も含まれており、その方言の響きが欠けては成り立たない“おこんじょうるり”も岡本忠成の愛した口語世界のアニメーションである。今作“モチモチの木”は創作民話ではなく創作絵本なので、台詞とト書によってドラマ性を高めるとなればまさに浄瑠璃の語りが合う。さらに三味線が豆太の感情の起伏に沿っており、勇気を振り絞って無我夢中の夜道のくだりなどはもう絶品である。
これこそ岡本忠成にしか作り得ないイマジネーションの世界。キネマ旬報ベストテン文化映画部門第1位。
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