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善き人のためのソナタのmiporingoのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.0
この映画がすごいのは、これだけ悪辣な国家体制であっても、良心や愛や芸術が、人を目覚めさせる力になるのだという、真っ直ぐなメッセージをわたしたちに突きつけてくるところにあるのではないかと思う。異常なほどの監視、密告社会であった東ドイツの、シュタージと呼ばれる国家保安庁のヴィースラー大尉が、マーク対象のドライマンとその恋人の生活を盗聴するうちに彼らに心動かされていくようになり、彼らを密かに庇い始める、その心の機微がとても良い。信頼できる友だちや愛する恋人に恵まれるドライマンに比べて、監視するヴィースラーは誰のことも信じられず、愛もなく、年老いた娼婦を部屋に呼ぶところなど、ドライマンと対照的な孤独な生活が描かれているのも印象的で効果的。
東西を隔てる壁が崩れた後の情報開示がすばらしく、さすがドイツだと思った。間違いは間違いと、認める歴史認知があるからこそ。日本はそういうところがほんとダメだと思うの。
最後、ダブルミーニングのセリフがめちゃいいですね。相変わらず孤独で、しかも地味な郵便配達の仕事をしていても、自分の取った行動に誇りを持っていることが伝わってきてジーンときます。直接会って握手するでも肩を抱き合うでもないのだけれど、そこに間違いなく友情と絆が感じられる瞬間。
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