おこめ

善き人のためのソナタのおこめのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.2
1つ1つの要素が個人的に好みでしかなかった。。最高。。

史実に基づいているとは思うけど、表現の自由が失われていた東ドイツで、密かに反体制の執筆(暴露)を企てるドライマンと盗聴するヴィスラーの関係性◎
対立構造として間違いないし、といってサスペンスに持っていかないドラマ性で魅せる映画の構造が最高!

ヴィスラーがどれだけ切れ者かという冒頭でのシーン。。人間離れした冷酷さを演出する学生たちの台詞(講義のシーン)。。そんなヴィスラーが盗聴生活の中で見せる売春婦との性行為。。あそこで「やっぱりこの人も人間なんだな」と気付かされ、視聴者に分からない程度にヴィスラーの隙を感じさせる。。

ドライマンが劇作家という設定がクライマックスまでしっかりと活かされていたし、ヴィスラーの心が揺れ動く時に流れるピアノの音色も重たい雰囲気が流れる今作において、かなり劇的に機能していて○

要所要所で高まる緊張感を演出する画作りも見事!アパートの表玄関を同じ構図で2回使用したり、ヴィスラーが取り調べを受ける際に平行感覚がズレるダッチアングルショットであったり、不自然に止まるトラッキングショットであったり、退屈に見えがちな会話シーンを工夫して多角的に見せていたり!

もっとドラマチックに作り込む事も出来たと思うけど、いい意味で冷たく演出しきった今作は文句無しだったと思うなぁ。

信じてきたモノが崩壊するヴィスラー(愛の力)と、結局は信じてきた人に裏切られた事を知るドライマン。。でもそこで知る本当の恩人の正体。。決してハッピーではないけど、最後に用意されているドライマンの著書「善き人のためのソナタ」のインパクト。。今作1番の劇的な演出であり、最後のヴィスラーの「これは私のための本だ」の一言。。

素晴らしかった。。このクライマックスも、その少し前のシーンでドライマンがドイツが統一されてから一切本を書いていないという元大臣とのやり取りがあったからこそ何倍にも意味のあるシーンに昇華されている。。

役者さんの表情も見事だったし、この作品は基本的にロングで捉えるショットが多いけど、体全体が映り込むショットって高い演技力が要求されるから役者さんの力が無いと滑稽に映りがちなのよ。でも今作は見事にその演出を体現していて◎

ただ、、欲を言えば、、、

ラストのショットは、、ストップじゃなくて、去っていくヴィスラーの後ろ姿とかをカメラが追わずに映し出す、、みたいな感じで観たかったなぁ。。その画のままエンドクレジットに入るみたいな。。

役者良し!演出良し!脚本良し!

映画としても劇としても見事でした!
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