とうがらし

彼女が消えた浜辺のとうがらしのレビュー・感想・評価

彼女が消えた浜辺(2009年製作の映画)
3.7
2009年ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞)受賞作

3組の家族が、カスピ海の別荘に遊びに来る。
その際、娘の女教師のエリと、離婚してドイツから帰国してきたばかりのアーマドも同行し、彼らは2人をくっつけようと画策していた。
アーマドはノリノリで、大人たちはバカ騒ぎ。
エリはその空気になじめないでいた。
ある日、海辺で子どもと一緒に凧揚げをしていたエリ。
今までのうっぷんを晴らすかのように、凧揚げを見ながら走り狂う。
一方、男たちがビーチバレーに夢中になっている。
すると、子どもが叫んでやってくる。
子どもが一人、海に溺れているのだ。
なんとか、一命は取り留めたものの、子どもに同行していたはずのエリが見当たらない。
必死に探しても見つからず、出て行ったのではないかと話し始めるのだが…。
彼らはエリのことを何も知らなかった。

消えた彼女のためか。
自分たちのためか。
嘘に嘘を塗り重ねる映画。
しつこいくらい、序盤のバカ騒ぎは観ていて嫌になるが、それはそのままエリの心情と重なる。
彼女が消えてからは真っ逆さま。
アスガー・ファルハディ監督が得意とする、不幸のドミノ倒し状態が始まり目が離せなくなる。
誰も救われない。
感情がえぐられる。
いやあ、さすがですわ…。

これにてアスガー・ファルハディ監督の過去作は全作品鑑賞。
同じくイランを代表する、アッバス・キアロスタミ監督との違いを考えながら観てきた。
前者は職業俳優中心、後者は非職業俳優中心。
前者は、より複雑にして言動で心の動きを表すのに対し、後者は、よりシンプルにして行動で心の動きを表す。
全くの正反対のようにも思えるが、共通点がある。
それは、”思わず嘘をついて、秘めたる感情が露わになる”ことだった。
誰もが手軽に発信できてしまう現代において、これは今後、さらに重要な視座になる。

アスガー・ファルハディ監督の演出は非常に高度で、他の人が真似できない領域に向かおうとしている。
観る人をかき乱す感情のエグさ。
とても子どもには見せなれない、大人向けの成熟した映画。
存命中の監督では、ミヒャエル・ハネケ監督と並んで最も注目している。
新作の「A Hero(原題)」は、先月のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。
おそらく来年の春から夏前ごろには、日本でも公開になると予想。
今からとても楽しみ。

【アスガー・ファルハディ監督全作品の個人的評価一覧】
4.3 別離
3.7 砂塵にさまよう
3.7 誰もがそれを知っている
3.7 彼女が消えた浜辺
3.5 セールスマン
3.4 ある過去の行方
3.0 美しい都市
2.5 火祭り
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