柏エシディシ

彼女が消えた浜辺の柏エシディシのレビュー・感想・評価

彼女が消えた浜辺(2009年製作の映画)
4.0
ファルハディの新作を観る前に未鑑賞作品の復習をと思いレコーダーに塩漬けしていた録画を引っ張り出して観たのですが……ナニコレ!?ど傑作。

テヘラン近郊の海辺のリゾート地にバカンスに訪れた4組の男女と家族たち。
トラブルに見舞われながらも初日は楽しく過ぎていくが、2日目に事件が起きる。海で幼い子供がおぼれ、何とか助かったものの、友人のエリが消えてしまう……
それまでは本当の家族の様に親密で明るく過ごしていた一行が、エリの失踪を機に、不和と不信に絡め取られていき、一度狂った歯車が少しずつ、そして確実に事態を取り返しのつかない最悪な方向に導いていく。

実質的な主人公であるゴルシフテ・ファルファニの苦悶と憔悴で歪む美貌が真に迫ってくる。エリを演じるタラネ・アリシュスティの愛らしさが印象的なだけに不在で進む中盤以降の悲壮感も容赦ない。

ある事件(謎の発生)をきっかけに人物達の隠された心情や為人をじわじわと炙り出していくファルハディの18番が炸裂。
しかも、基本は別荘周辺に舞台が固定された「密室劇」の様相もあり、サスペンスの純度が非常に高く、緊張感がハンパない。

小さな嘘や些細な疑念が、やがて大きな過ちに繋がっていく、悲劇のドミノ倒し。
う〜ん、ヒリヒリするような、ぃやぁーな感じ。しかし、これが堪らんですw
そして、序盤から丁寧に散りばめられた伏線がお互いに呼応しながら、収束していく脚本と演出が見事過ぎる。

エリの独立心を象徴する様なルイヴィトンのバッグの違和感。
風に煽られる高く舞い上がる凧。
終幕、砂浜に立ち往生する乗用車。
細かいセリフ回しや、さりげない演出で主題をきっちり補完してくる匠の技。
ファルハディ、最高傑作。
柏エシディシ

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