再鑑賞。
ビデオテープやテレビでもアナログ放送の時代に観たので、HD画質で観るのは初めてで画質が綺麗で新たな発見でした。
本作は多分、10代後半の頃に観たのですが衝撃的でした…。これまでの銀行強盗物の映画は成功するパターンの時は鮮やかな手口や大胆不敵にスカッと、失敗するパターンでもドラマティックに魅せるのが多い中で、本作は無謀な計画に始まり泥臭く人間臭さ溢れる物でこれまでに無い展開に驚きました。
「狼たちの午後」という邦題もインパクトがありました。しばしば「狼は居なかった」「作品の中身と一致していない」という議論にはなっていますが…個人的には好きな邦題。ベトナム戦争後の閉塞感のあるアメリカ社会。メディアと大衆の煽りや思いやりに欠ける社会、警察とFBIとの確執など当時のアメリカ社会の構図を浮き彫りにして絡める演出が見事としか言えません。
正に適材適所という他ない配役も見事。狭い空間の中で強盗犯と人質がやがて奇妙な親近感を覚えて行く様を丁寧に描く脚本が秀逸で時折は舞台劇を観ているような感覚。
実際に起きた事件を下敷きに描いており、実際の事件の動機は主犯格のゲイである恋人の性転換の費用を得るためで、強盗は失敗したものの本作の収益の一部を供与されて恋人に費用をプレゼントしたが後にその恋人はエイズで亡くなるという後日談も哀しく虚しい…。
巨匠シドニー・ルメット監督といえば徹底したリハーサルを行う完璧主義者で知られ時にはリハーサルが数十回と数十時間に及び、それがイヤで監督との仕事を敬遠する役者やスタッフも居たというのは有名な話。
しかし、本作に至っては殆どのシーンを役者のアドリブで撮影したというから驚き。しかし、それが緊張感と強盗犯と人質の奇妙な親近感をリアルに出す結果になったと思います。
こちらも有名な話ですが舞台はうだるような暑さが続くニューヨークですが、実際の撮影は寒くなって来た秋口で吐く息が白くならないように役者に氷を含ませて演技させたというのもビックリです。
そういう徹底的なこだわりがリアルな緊張感を出し、名作と言われる作品を作り出したのだと思います。
友の亡き骸を呆然と見つめる主人公ソニー。FBI捜査官がソニーに嘆いた言葉は果たして真実なのかどうか…それはソニーだけが知る…。
救いが無く呆気なく淡々と締め括られるラストはアメリカン・ニューシネマらしい終わり方でした。
改めて観てもアル・パチーノさんの名演と他の役者や監督とスタッフの熱量と緻密な脚本に圧倒される名作と思います。
まとめの一言
「狼になるには優し過ぎた」