半兵衛

くちづけの半兵衛のレビュー・感想・評価

くちづけ(1955年製作の映画)
3.5
総監督的な立場の成瀬巳喜男が石坂洋次郎の原作を用いて描かれる、三つの短編での戦後の日常描写を練達な演出で施し見ていて心がほっこりとする佳作。

笠智衆の先生に癒される第一話、飯田蝶子の祖母、藤原釜足と清川虹子の両親という完璧すぎる田舎の家族キャスティングのやりとりが笑えるし妹役のバンビこと中原ひとみに萌える第二話も良いのだけれど、それ以上に成瀬本人が監督した第三話が面白い。

町医者である上原謙の妻である高峰秀子が中村メイコの看護婦の日記を偶然読み、彼女が上原に恋していることに気づいた彼女の他愛のない騒動が、ベテラン成瀬監督の手腕によって極上の家庭ドラマに。中村メイコの日記を隙あらば読んで彼女の心情の変化を楽しんだり心配する高峰の厚かましさに苦笑し、上原と引き離すため中村が惚れていると高峰に告げ口されその気になる小林桂樹(プレゼントするジャガイモにリンゴを混ぜて送るセンスの良さに感動)に心癒され、この騒動にやきもきする高峰を諭し、なおかつ日記を勝手に読むなよと軽く説教する高峰の兄伊豆肇の常識人ぶりに少し感動。高峰のやや強引すぎる追い出し作戦が成功したのちに訪れる、酷いことをした高峰への報いのような衝撃のオチはもはやホラーで爆笑必至。あと成瀬監督の代名詞とも言えるチンドン屋もちゃんと出てきます。
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