脱獄囚が乗り込んだ列車が無人暴走。極寒のアラスカを舞台に悪魔のようなエンジンの唸りを上げて突進するフルパワー4重連のディーゼル機関車と、執拗に追って来る刑務所長と自由を求め真っ向から戦いに挑むジョン・ボイトの魂の叫びは涙なしには見られない真の男の生き様!
黒澤明監督が温めていた脚本をロシア人のアンドロレイ・コンチャロフスキーが映像化。スリリングな刑務所脱獄シーンから列車へ乗り込むまで一点たりとも無駄のない完成尽くされたプロットでぐいぐい引き込んでいく。ボクサー役で駆け出し時代のダニー・トレホがスリムなボディを見せてくれる。黒人の運行司令員デイブには『遊星からの物体X』で終盤まで生き残るノールスを演じたT・K・カーターを起用。またしても寒々しい雪景色の作品に一際生える役柄となった。運行司令長マクドナルドには『サブウェイ・パニック』で現場指揮官を演じた巨漢のケネス・マクミラン。トレインパニック物に引っ掛けてキャスティングしたとしか思えないファンの心をガッシリと掴む俳優陣にも注目したい。
ベースの基本はやはり『新幹線大爆破』なんだけど、貨物列車との離合シーンは『アンストッパブル』に影響を与えている。(全く同じシーンがある)ランケン所長のヘリ追跡とボロい橋梁通過シーンは『カサンドラ・クロス』とほぼ同じだけど、俯瞰やローアングルで狙った撮影手法は本作の方がレベルは高い。鋼鉄の機関車が貨物と衝突した際に引っ掛けた残骸が悪魔の牙に見えてくる。誰にも止められない鉄の塊は悪魔そのものといった様子だし、逃避行に疲弊し自由の道を選択したマニーの狂気じみた行動もやはり何かに憑りつかれたかのように見える。
防寒対策で身体中にグリスを塗りラップを巻くマニーの姿がとても印象深い。連結器に指を挟まれ赤じゃなく黒い血が飛び散るのも覚悟を決めたマニーの身体に変化が起きているように思えた。この機関車こそ、姑息な手段で囚人を押さえつける体制から逃れる自由への片道切符。屋根に上り悲し気な表情を浮かべるマニー・・・ジョン・ボイトの熱演は雪をも溶かす。彼は囚人全員を自由の世界へと解き放つ救世主だったのかも。パニックよりヒューマンドラマ寄りの名作ですね。音楽にシンセを用いているのが80年代らしい。
【2017年7月23日(日)】
午後のロードショー
<2016年11月30日(水)放送>の録画で鑑賞。
●ジョン・ボイト(マニー)麦人
●エリック・ロバーツ(バック)堀内賢雄
●レベッカ・デモーネイ(サラ)佐々木優子
※初見は1988年2月16日、
TBS系「ザ・ロードショー」で。