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男はつらいよのodyssのレビュー・感想・評価

男はつらいよ(1969年製作の映画)
3.3
【「男はつらいよ」第一作――マドンナの罪】

有名なシリーズ映画の第一作で1969年製作。 

父と折り合いが悪く家を飛び出した主人公・フーテンの寅 (渥美清) が、久しぶりに妹とおじおばの住む葛飾柴又に戻ってきて起こす騒動を描いている。 

まず、妹さくら(倍賞千恵子)を会社幹部が見初めて「うちの息子の嫁に」ということで設けられた見合いの席を台無しにし、次に隣の工場で働く好青年(前田吟)がさくらに寄せる思いを曲げて伝えたために二人の関係を壊しかけ――結局はめでたしになるのだが――、最後はマドンナ役の光本幸子(御前様の令嬢、という設定)に振られて柴又を去る。 

全体として、葛飾柴又が「庶民の世界」であるのに対して、対比的に「高級な世界」が呈示されているのが分かる。さくらの見合い相手は大会社の幹部の子息で、会場は巨大なホテルであり、席には洋食が並べられナイフとフォークを使って食べるというなかで、主人公が下品な言動を繰り返してぶちこわしにするという設定。 

また、好青年とさくらとの関係でも、主人公は青年に相談を受けて「妹の相手は大卒でないと」と知ったかぶりで返事をするのに対し、青年は大学を出ていない。ところが結婚式で久しぶりに青年は実父と再会するのだが、その父は大学教授であり、かつて青年は父と喧嘩をして家を飛び出したのだ、という経歴が分かってくる仕組みになっている。 

つまり小工場で働く学歴のない青年の父は実は大学教授であり、こりゃ一種の貴種流離譚かな、と。おまけにマドンナの光本幸子の婚約者も大学教員という設定で、この時代、大学教師ってそんなに高級感があったんですかねえ、と首をひねりました。今なら、若者の半数は大学に進学する時代ですから、大学教師なんて言ってもインパクトがないわけですが、この映画が作られた1969年はまだ大学進学率が25%くらいだったので、大学教師にも高級感があったんでしょう。 

なお、マドンナが寅さんを遊び相手にしながら実はしっかり別の婚約者をゲットしているという設定について、おばちゃんに「お嬢さんも悪いと思う」という批判の言葉を吐かせているところが、美女の無意識の偽善に対する見識を示していて、この時代、脚本家もバカじゃなかったんだな、と思いました。光本幸子は着物姿が似合っていてとっても魅力的ですけど。
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