くりふ

睡蓮の人のくりふのレビュー・感想・評価

睡蓮の人(2003年製作の映画)
3.0
【おセンチおじさんの亀立ち】

村田朋泰のアニメーションには、文句なく引き込まれる…ということがなく、いつもどこか、歪な後味が残ってしまう。

本作では、ビジュアルの構築力、大工さんとしてのパワーにもの凄いものを感じますが、物語には正直、何を残したかったかよくわかりません。

古い日本家屋で、独り暮らす初老の男。静かオブ静かな毎日に突如、チン…いや闖入者が現れ、その導きか、古い思い出が蘇るが…というお話。

たまたま、作者のコメントを読んだが、男のモデルは棟方志功だそうだ。私はこの崩れ方はむしろ、宮崎駿だと思うが。

棟方は青森出身だから、現地で取材し、使えそうな家屋の写真を撮らせてもらい、“人形の家”として再現したそうだ。

この再現…戸外の様子まで含めた男の住まい環境が…すんごい完成度なんですね!セットではなく、本当に毎日、そこで生きている空間に見える。ココに浸るだけで、この映画に浸れてよかったと思えます。

だから、それだけで男の人生が、じゅうぶんなものに思えちゃうんですよ、映画上は。前半、何も起きない日常描写に、ほんとうに惹き込まれる。

そこへ、窓を破って!?亀が闖入してくるわけですが…正直、要らない。

どうやら男には、失った(…亡くなった?)妻らしき女が居たようだが、すっかり彼女のことを忘れており、亀によってそれを思い出す…というのが骨子らしいんだけど。

どんな死生観かによるかと。私なら、もし亡くなっているなら正しく供養しないと、思い出しただけじゃ相手にとっては無意味。男が自己満足に浸る様を見せられても、特に共感はできないな。

だから、亀以降はふぅん、という感想でした。

亀を出した意図はよくわからないが、どうにも、見ているとちんこ連想しちゃうから、そこから女を思い出すのは確かに正しい、男の夢想だとは思います。…夢精というべきか。

この魅力的な舞台設定からは、正直、違う物語を見たかったなあ…と思いました。

<2024.1.10記>
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