スローモーション男

おもひでぽろぽろのスローモーション男のレビュー・感想・評価

おもひでぽろぽろ(1991年製作の映画)
4.8
 今更ながら、初鑑賞

高畑勲が描く、少女の苦い成長譚
宮崎駿が高畑に長編アニメを撮ってほしいと願い、企画を送った映画。

 田舎暮らしに憧れている東京生まれ東京育ちのタエ子は、休暇中に山形県の義兄の住む田舎町に行く。その途中で小学5年生のころの想い出を回想し始める。

 これは子供の頃、観てたら面白さが分からなかったと思う。
 僕は大学生ですけど、タエ子みたいに小学校や中学のころの楽しかったり、辛かったりの記憶を思い出すことがよくあるので共感できました!
 大林宣彦の『青春デンデケデケデケ』にも似てる。

 小学校高学年あるある、好きな子との初恋、生理が始まってきて、男子が女子をおちょくる、お洒落したくてお姉ちゃんのエルメスのバッグをねだるなどなど本当に面白いです。
 ですが、その何気ない生活を遊び心満載で高畑勲は描きます。
 好きな子と話せてタエ子が舞い上がるとそのまま空を飛んでいってしまったり、当時の少女漫画のタッチみたいな表情になったりと。

あと既成曲の多さも驚き!
YMOから始まり、植木等、ザ・ワイルド・ワンズ、倍賞千恵子、都はるみ


 現代パートも面白いです!
トシオという男性と話ながら、ベニバナを摘んで染色作業をする。
 その仕事をこなしながらの生活の美しさが見事なんです。

 そして、タエ子はどこか苦しんでるのです。小学5年のときも27歳になった今も。自分はわがままだし、勉強できないし、過去にすがってばかりいる。それを自覚しているのに、何も成長できないし自分で判断できない…。

 一番良いエピソードが、小学校の劇をやったあと地元の劇団からスカウトされるタエ子が芸能デビューできると喜んでいたのだが父親に反対され夢が破れてしまう。
 暗い気分のなか、母親と商店街を歩いていたら「ひょっこりひょうたん島」のテーマ曲が…。
 「苦しいこともあるだろさ、悲しいこともあるだろさ、だけど僕らはくじけない 泣くのはいやだ笑っちゃおう 進め」
 タエ子が歌いながら元気を取り戻す。


なんなのこの演出!!!!!!!!!!
既製曲使ってこんな名シーンを再構築させてしまうなんて!!!!!!!

 そしてラストのエピソードも素敵だったなぁ。自分にとっては嫌な想い出として記憶してたことでも見方を変えるととっても素晴らしい思い出になる。
 記憶ってそんなものかも知れません。

タエ子は最後に成長するんです。小学5年の自分を置いて新たなステップを駆け上がる。
それでも昔のことは忘れないでと言われている気がした。
 この映画以降、高畑勲はみんなでお見送りするシーンを入れるようになったかなと思いました。


 アニメーションでここまで繊細に丁寧に描けるのは高畑勲だけです。
 とっても素敵な映画でした!