萩原くわがた

What about meの萩原くわがたのレビュー・感想・評価

What about me(1993年製作の映画)
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日本で新宿あたりの都心に行けば必ず見ることができるホームレス。無縁な世界の住人だと思いつつも物理的には身近だったりする。でもそのホームレスという存在自体を己の中で深く掘り下げようと思う人も自分含めあまりいなくて、本作はまさに意表を突くような作品だった。

映画開始直後に見せる「これから始まるホームレスの物語は貴方達の生きる世界とは別世界のファンタジーですよ」と皮肉的に言われているかのような演出が凄い。
これリアルタイム中は普通に見てたんだけどエンディングになってから思い出すとなんかやたら心にグリグリくる。

物語も1人の女性が普通の生活から突如不可抗力でホームレスになり、ホームレスとして生き、扱われ、その中でも夢や感情や交流を持ち…というお話なんだけど、本当に自然に辛い。悲劇!みたいな感じじゃなくて自然に不安になってジワジワと沈んでいくリアルな感覚がある。
この後どうやって生活して生きていくんだろうという漠然な不安の中で動き回る気持ちが主役の表情を通して伝導する。
でも悲劇の中でも小さな喜びや人間の情も随所にあって、全てが嫌になってしまう映画ではなくなっているのが救い。組み上げられるかは別として、割とこの世には幸せのパズルのピースはたくさんあるんだよな…と思ったりした。

白黒の映像に音楽。ダメージジーンズのような煤けたアート的良さが充満していて雰囲気がハマる。
やるせない気持ちになりつつも見た数日後にぽつぽつとシーンを思い出してしまうような魅力のある映画。