似太郎

受取人不明の似太郎のレビュー・感想・評価

受取人不明(2001年製作の映画)
3.9
【幸福番外地】

キム・ギドク初期の代表作らしいが、とことん陰鬱なムードの青春群像劇である。

アメリカへ帰国した米兵の夫へ幾度も手紙を送り続ける女と、駐韓米軍基地のある町ピョンテクに暮らす若者たちとその家族の悲哀と不安心理を抉ったシリアス作品。

ここまで残酷な展開にするか?という程、サディスティックな作風が如何にもギドク風でちょっと凹む。内容が重苦しく政治的なだけに、観ている間はひたすら苦痛。しかし、このような鬱屈した作風に韓国映画特有の「恨(ハン)」の伝統が流れているので掘り下げて観るとなかなか興味深い映画ではある。

毎回、米軍基地から「Address Unknown(受取人不明)」というスタンプが押されて戻ってくるだけで返事が来ないという極めて非人間的かつ荒んだ雰囲気が特徴の、どこか初期大島渚やパゾリーニ作品にも近いペシミスティックな感触の映画となっている。

まだ若干演出が手慣れていないお粗末な印象も受けるが、その不条理性剥き出しなキム・ギドク的世界はすでにこの時点で確立されている。何やら卑屈で陰気で自虐的…といった戦後間もない頃の日本映画にも共通するエレメンツがたっぷり揃っており、そんな意味でも懐かしい(?)気持ちにさせられるとことんダウナーでエグい地獄絵図のような作品だ。
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