Jeffrey

受取人不明のJeffreyのレビュー・感想・評価

受取人不明(2001年製作の映画)
3.5
「受取人不明」

冒頭、1970年代の米軍基地のある韓国のとある村。季節は秋。観望と奇観の土地柄、好風の中での残酷さ、犬殺し、失明の少女、混血の少年、手紙、不良、犬商人、北のアカの白骨、拳銃、年金暮し。今、暮雪の中で土に埋もれる肉親を見る…本作は前作「魚と寝る女」でベネチア国際映画祭で賞賛されたキム・ギドクが次にベネチアのコンペティション部門に正式出品した2001年の映画である。この作品は日本で劇場公開された時は4年後とかなりスパンが長かった。韓国人と米国兵士の関係をテーマに韓国社会の闇を描いた社会派ドラマ。

さて、物語は韓国人女性と黒人米兵の子供チャングク。母は米国にいる夫に迎えに来てくれと手紙を送っているが、いつも受取人不明で戻ってくるのである…。

本作の冒頭は木材をノコギリで切り、その手の寄りと木の銃を形取り一人の少女の頭の上に乗っている空き缶を撃つ少年のファースト・ショットで始まる。拳銃の音が聞こえて空き缶は地面えと落下する。そこでタイトルロゴが映り込み1970年秋の原風景の田舎町が捉えられる。そして米国の国歌が流され星条旗が上がる。ここは韓国にある米軍基地のようだ。兵隊が列をなして走っている。

カットは変わり、とある民家が映される。そこには老人と若い男性がいる。家の中から子犬を手に持ちやってきた少女、ぬいぐるみを手にしていた老婆(母親)のぬいぐるみを蹴り飛ばすその少女。襖から飛び出て兄のような男が母さんと声を掛けるがあしらわれる。どうやら家族のようだ。カットは変わり、真っ赤な廃車のバスが写し出される。そこには2人の男女が住んでいるようだ(この時、米軍のヘリコプターの音がずっと聞こえている)。女はバスの上に乗り、米軍機を写真に収める。

続いて、田舎町の道を歩く学生たち(私服の人もいる)。そして肖像画専門店と言うところにやってきた1人の少年。そして米軍イーグル部隊と書いてある入り口にやってくる2人の不良韓国人男性。例のやつはあるかと入り口に立っている米軍に話をかけてポルノ雑誌のようなものを手渡されカバンにしまう。カットが変わり、犬商人のバイクの荷台にある小さな檻の中に男性チャングクが入りどこかへ向かう描写に変わる。

犬を購入しに来たそうで、その檻の中に犬を入れる。そしてその犬をロープで吊るしバットで犬商人の男性が何度も繰り返し殴り殺す。バーナーが用意され、人気のないボロ小屋の中で犬に対し何かをしている模様が見えない形で観客に想像させる。続いて、先程の若い不良男性2人が米兵からもらったアメリカ産のポルノ雑誌を読んでいる描写に変わる。先程の肖像画専門店で韓国人女性と黒人米兵2人が肖像画を描いてもらっている場面にも変わる。

続いて、赤いバスの中に暮らす女性宛に1通の米国からの手紙が送られる。受取人不明とのことで繰り返し返送されてきているようだ。配達員はまたです、もう諦めた方が良いと彼女に伝える。彼女は無言でバスの中に戻り改めて手紙に写真を入れて配達員に渡す(この時、音楽が流れる)。彼女は町の小売店に行く。秋刀魚の缶詰はあるかとそこの女店主に言うが、英語だったため彼女がここは韓国だから韓国語で話せと言い口げんかから取っ組み合いの大喧嘩に発展する。

それを傍観する最初に出てきた家族の娘や息子、英語を話す彼女の息子(犬を殺した時に犬を吊すロープを手に持っていた男性)が泣きわめくその女(母親)を店から引きずり出す。肖像画の店で働いている若い男性チフムがおもちゃの拳銃で片目を失ってしまった女性ウノクの肖像を描いて手渡そうとしたが、彼女はそれを破り捨てて彼の頬にビンタを食らわせる。チフムは米国軍兵士を相手にした肖像画専門店で働く父親の手伝いをしているため、高校に通っていない。

先程の母と息子が赤いバスの中に戻る。母親は息子に対して親不孝者めと嘆く。息子はクソ婆と言い親を蹴り飛ばそうとするが止める。どうやら受取人不明で返ってくる手紙を何度も送り付けているのにうんざりしているようだ。息子の名前はチャングク。彼は黒人兵との間に生まれた混血種であり、母親と2人で暮らしている。彼は犬商人の所で働いている(手伝い)。

続いて、バスの中で1人泣く母、そこに犬商人がバイクでやってくる。彼はまた殴られたのかと彼女に聞き擁護しようとするが、彼に手を出したら許さないと男に言いながらも泣きながら彼に抱擁する。続いて、右目を失明したウノクが外の草むらで1人座っているところを近所の悪ガキどもが好奇心で彼女の目を馬鹿にする。走って子供たちを捕まえてお前もこのような女になりたいかと脅す。カットは変わり彼女の家へ。

彼女の父親は、朝鮮戦争で戦死したそうで、父親の年金と母親の内職で生活している様だ。米軍基地内の病院で目を治してもらうため、彼女は高校で英語を勉強している。そこに彼女の兄貴がやってきてて、その目は俺のせいじゃないお前が動いたのが悪いんだと言う。ここで冒頭に出てきた少年少女の描写がこの2人の幼い頃の描写だと言うことが判明する。

続いて、弓を引く犬商人とその元軍人なのか男性仲間数人の会話が映される。そしてチフムがウノクの着替えている姿を夜な夜な外の隙間から覗き見る。どうやら彼は彼女に好意的な気持ちを持っているようだ。彼女の部屋に兄貴がやってきて妹にまだ起きているのか早く寝ろと言う。翌日、ポルノ雑誌を貰った不良男性2人がウノクの家に入り子犬を盗む。道端で遭遇したチフムに犬の特徴を教え肖像画を描いてもらう。そこに彼女の兄貴がやってきて、いちゃつくんじゃないと言い去る。

街の壁に犬の肖像画の紙を貼っているのを見かける不良少年はそれを取りぐちゃぐちゃに丸めて捨てる。 2人はとあるお店にやってきてこの犬を拾ってきたと言うが子犬はいらないと追い出される。彼らは子犬だって食べられるだろうと嘆きながらも夜人気のない草むらの中に犬を連れて行く。そして藁のようなものに火をつける。とっさに後をつけていたチフムが段ボール箱に入っている子犬を危機一髪のところで助ける(段ボールに火が燃え移り大炎上していた)。それを彼女の家に届ける。彼女は黙って犬をもらう。そしてまた隙間から彼女の事を覗き見る。

続いて、米兵たちが学校のグラウンドでバスケットボールをやっているシークエンスに変わる。そこにウノクが現れ、1人の兵士が彼女に声をかける。だが、お前のそういった態度が米軍の評価を下げる原因だと言われ仲間同士で口げんかになる。ウノクは帰り道、犬の交尾を見かける。カットは変わり、チャングクがお前昨日俺の女に何手を出しているんだと犬商人に暴力を振られる。それでも仕事をし続ける彼は怒りに身を任せて犬をバット殴り殺す。犬商人は彼を褒める。そして会話が始まる。

続いて、チフムが犬を盗んだ不良学生の2人に絡まれている。お前の夢を英語で話せと言い、彼のポッケから札束の入った封筒をネコババする。そこにチャングクがやってきて、不良にハーフが…と言われ激怒する。そしてチフムに今後何かあったら俺に言えと言う。2人はウノクを覗ける小屋に行き、物音で誰かに覗かれていることに感づいた彼女はその小さな穴から鉛筆を差し込み、覗いていたチャングクが怪我をする。

続いて、チフムとウノクがビニールハウスで愛し合う。そこに先程の不良2人がやってくる。彼らはチフムをボコボコにする。翌日、おもちゃで使った火薬銃で不良の前に現れた彼はその拳銃で撃とうするが自分の目に暴発する。それで目を怪我してしまう。次のカットではチャングク、ウノク、チフムが3人揃って道端を歩く描写に変わる(この時、眼帯をしている)。

やがて1人の白人米兵にナンパのようなことをされ、米軍の同僚に麻薬検査をされることを知った彼がとっさにウノクの学校カバンに薬をしまう。そして彼女は1人去っていき、その薬を試しに口にほおばる。ここから物語が佳境へと展開していく…と簡単に説明するとこんな感じで、ポン・ジュノ監督とはまた違った韓国文化が垣間見れて非常に楽しい。こうまでして残酷なものなのかと思わされる。

キム・ギドクって韓国人がほとんど気にかけなかったり、手を出そうとしないような題材を好んで探してくるところが非常に好きだ。彼のフィルモグラフィを見るとほとんどが風変わりなテーマを拡大解釈して描いている。あたかも日常茶飯事のような写し方で。これが良い所だ。

いゃ〜キム・ギドクの作品て拒絶反応する人は絶対にいると思う。この作品も動物愛護団体にクレーム入れられてしまうほど動物に対しての酷い仕打ちが写し出される。もちろん冒頭にきっちり文章で断っているが…。犬の件で言うなら犬をどんどん殺して食べようとする仕事があるため、ウノクの買っている子犬がそのうち殺されるんじゃないかと言う暗示は最初からあって、いつどこで行われるかというのが頭にいつもよぎってしまう映画である。

また、米軍があると言う事で彼らに何かされるんじゃないか(レイプ) 銃が暴発して誰かが死ぬんじゃないかなどと言う暗示も最初からあってドキドキする。そしてチャングクが目を怪我したことによってチフムも近々目を怪我するんじゃないかと言う暗示も中盤からある。印象的だった場面は、地面のぬかるみに思いっきりジャンプして足が挟まったチフム、そこには大量の北のアカとされる白骨死体が発見され、銃1丁が掘り出され、それをきれいに手入れする足の悪い男が試しに鶏に撃って拳銃の音が鳴り響き、その音を聞くと朝鮮戦争を思い出すと言い、チフムに俺が北のアカを何人殺したかと話す場面。

ビニールハウスで白人の兵士がウノクに雑誌から切り取った女性の目を彼女の失明した目に貼り付ける場面、朝鮮戦争で亡くなったはずの父親が実は北朝鮮で暮らしていると言うことがばれてしまい、夫の年金暮らしが免除になってしまい犬死にだと嘆く母親の場面、彼女が目の手術を無事に成功して左目を隠して右目で犬を両手に抱える場面、母親が彼女に手術を進めた白人兵士に感謝をする眼差し、畑でチャングクの母が野菜を盗もうとする場面で農家の人にばれて責め立てられるところで、息子がやってきて抱え込まれながら去って行くどさくさ紛れに野菜をもう一度拾って盗む場面、息子に乱暴に扱われバスの中で裸にさせられナイフで刺青を掘られそうになる場面。


それにしたってろくに仕事もせずに父親の年金生活を堪能していたばか息子が妹が白人の兵士を恋人にしてきたことによって、俺の妹を弄んでおいて金も払わないのかと言い喧嘩になる場面とかは滑稽である。また犬商人がチャングクに〇〇される場面の滑稽さは犬の復讐と言っても良いだろう。それに相変わらず懲りない不良学生2人もしつこく暴力沙汰を起こしており、仲間の1人が見かねて俺はパシリじゃないといい路地裏でリーダー格の男に殴りかかる場面も滑稽だ。

何よりも市川崑監督の「犬神家の一族」もしくは相米慎二の「台風クラブ」にもあったあの奇妙な死に方(上半身が地に埋まったりもしくは水中に埋まったり)。ネタバレになるため誰がそのような格好で死ぬかは伏せておく。この映画クライマックスにかけて一連の憎しみの連鎖が爆発する。気狂いになった米兵、自ら眼球をえぐり出す人間、有刺鉄線のようなもので自らの首を絞め始めたり飲み込んだりする人間など。

特にチフムが留置場で不良1人の男と遭遇し、殺そうとするまでの計画が凄い。あんな汚いケツの穴から……。

ラストの余韻の描写は記憶に残る。やはりどこの国も他国の軍隊が居座ると言う事は息苦しくて胸糞悪いものなのだろう。そういった米国風刺がきっちりと描かれている。でも最終的に何が言いたいかと言うのはそこまで分からず、正直必要性がない映画にも感じてしまう。人によっては必要な映画と思う人もいるかもしれないが、複雑な気持ちになる。

まさに沖縄が返還されてからの日本と重なってしまう映画ではあるが、活動家による過激な運動や日本民族以外の民族が入って独立を狙おうとしている部分はこの映画とは全然違う。キム・ギドクの感性ってどこかしらおかしいよな(褒めてる)普通こんな作品撮ろうと思わないのだが、そこら辺を撮ってしまうのが先ほども言ったように彼の特性の1つだ。よく朝鮮人は残酷な民族と言う書籍の中に本作で行われている暴力的な、ヒステリックな事柄が記述されているが、本作にはいくつもあって、そういったものが映画を通してみるとそうなんだなぁと思ってしまう。

犬食文化と残酷性がこの映画から思いっきり伝わってくるのは誰しもが思うはず。韓国人の気質を垣間見た瞬間が幾つもあった。それは悲しくも残酷な民族分断の歴史があり、決してお勧めすることのできない痛々しく悲しい群像劇である。そういえば、ポン・ジュノ監督の「パラサイト半地下の家族」の公開で地元住民の人々はこんな恥を世界にさらけ出して何か受賞だと怒っている男性のインタビューをニュースで見たが、この作品も韓国人にとってはかなりきつい映画だろう。

米国と韓国の対比とその中に生まれる憎悪、悲劇を様々な人々の視点で描いていて、結局のところこの映画には悪人と言う悪人が出てきたのだろうか、被害者、加害者と言うのはあるのだが、俺からすると加害者も被害者に見えるし被害者も加害者に見えてしまう。そんな混沌とした映像が終始運動されていく。
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