萩原くわがた

ローリング・サンダーの萩原くわがたのレビュー・感想・評価

ローリング・サンダー(1977年製作の映画)
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ベトナム戦争帰還兵の映画はたくさんあって、登場人物が苦しんだり狂ったりしてる様子に観客は心を痛め、戦争という悪魔に邪悪さを抱く。映画というコンテンツは楽しさやスリルだけではなくて、”安全に”辛くなったり”安全に”傷ついたり、そうやって日常生活では身近に存在しないものを容易に感じたり学んだりできる。敷居の低さと変幻自在性が素晴らしい文化だと思う。

でもこの映画はベトナム戦争の悲しみを全編に感じさせながらも「やっちまえ!」って思ってしまう瞬間があって、それは勿論全くもって戦争賛美につながるものではないんだけど、ハッと我に帰るような感覚がパチっと心の中で火花を出す。

そして、ベトナム戦争から平和な世界へ帰還したはずなのに悪人たちに強襲された男が片腕を尖ったフックに変えて敵のタマを串刺しにする戦いへ堕ちていくバイオレンスな感情に共感し、理解させられてしまう。
そしてこの映画に夢中になる。ただ狂人が悪人を殺すんじゃなく、我々視聴者と一緒に殺す。ベトナム戦争は存在そのものが地獄だしその経験は傷跡だが今回ばかりは正義に加担する。もはやそれが良いことか悪いことかすらわからないけど、主人公は身を委ねて颯爽と歩みを進める。
この映画に感じる感情は”ギリギリ安全”なのかもしれない。


95分という『ムービー』的な時間とアクション内容でありながら、そこには『シネマ』を感じさせる瞬間がたくさんある。こちらの感情が片腕フック男と数度繋がってしまう。なんて恐ろしくも楽しい瞬間だ…。