【戦禍の中で己を貫く難しさ】
舞台は昭和18年の南満州、軍隊への招集免除を条件に南満州にある鉄工所での中国人捕虜の労務管理を任された主人公・梶。
彼は人間を人間でなくさせてしまう戦争に否定的かつ人道主義を重んじ、いざとなれば社会主義を容認する立場を取っている。
端から見れば偽善者でヒューマニストな梶が、幾重にも重なる困難の壁を前にし、それでもなお己の思想を貫く姿を描く。
全6部作の第1部 純愛篇と第2部 激怒篇。
夫を立てる健気で美しい妻を持ち、優秀な業績で将来を見込まれ兵役まで免除に。今までの人生うまくいかなかったことなんかないんでしょ?苦労なんて知らないんでしょ?どうせあんたの人道主義なんぞ机上の空論でしょ?と。
しかし、梶は違った。
上司からの嫌がらせ、同僚の疑いの目、慰安婦に蔑まれ、捕虜からも“日本人だから”と信じてもらえない。
それでも、梶は屈しない。
結果で上司と同僚を黙らせ、行動で慰安婦や捕虜に認められていく。もちろんこの結果は幾重にも重なる困難の壁から逃げず、己の思想を貫いた末に掴み取った確かな現実である、、、はずだった。
普通の映画ならばここで終わりなのだろう。
しかし、今作は終わらない。
自分を認めてくれたはずの上司や同僚の裏切り、信頼関係を築いたはずの慰安婦や捕虜の反逆により窮地に立たされた梶は究極の選択を迫られる。
己の思想を貫くことで“人間”として存在していられるのか?
はたまた、人道主義の仮面を被った殺戮者に成り下がるのか?
梶の苦悩は第3部 望郷篇 第4部 戦雲篇へと続く。
《生誕100年 小林正樹映画祭 反骨の美学》
2017-16