足らんティーノ

時計じかけのオレンジの足らんティーノのレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
5.0
政治マジック。
誰しもが反対すること(レイプや暴力)を善良なものに変えるとき、別の大事なものも密かに変えられている。

公開された1971年は60年代末からのデタントの時代ではあるものの、『1984年』のオマージュ作品である『未来世紀ブラジル』のような反共産主義的作品を想像してたから、結果的には遠からずなんだけど、主人公の無秩序ぶりには最初肝を抜かれた。
いかにも反権力的な若者の誇張された隠語に、誇張されたセンスのいい近未来的な美術。同様にアレックスの暴力性も誇張されてはいるが人間的で、そんななか静かに全体主義に移行する恐怖が明るい色調で緻密に描かれている。

虚飾と偽善を学ぶ懲役罰から、被害者との連関を持つ(被害者の気持ちになる)実験の様子は、いちばん重要なシーンなのに目新しさに欠けて、ホームのシーンまではやや退屈だった。

「完璧に治ったね」
最後のセリフでハッと気付かされる。
政府の政敵に全体主義の犠牲者の象徴として利用されたあと、病院で〈ガリバー〉をいじる手術を受けたら超暴力〈アウトラ〉が戻っている兆しがあり、洗脳から開放されたように観客には見えていたが、元に戻ったのではなくて、淀みなく反逆性のない政府に与する市民になっていることに。
最後の象徴的なシーンは、元の自分の意思だと思っている暴力性が権力者に監督されている図だと感じた。

コインの裏が表に戻った時には入念に変化を確認する必要がある。ひっくり返ったように見えても、それは裏のままかもしれない。

2021-265/字幕
足らんティーノ

足らんティーノ