Yoko

ベティ・ブルー/インテグラル 完全版のYokoのレビュー・感想・評価

4.1
 海辺のバンガローに住む中年男性”ゾルグ”。
家主の言いなりで仕事を任され生きている彼の前にウェイトレスをクビになった少女”ベティ”が現れる。
夜な夜な激しいセックスを行い愛を確かめ合う中、ベティはゾルグが昔描いた小説を目にする。
彼の小説に天才的センスを感じたベティは、ゾルグの小説の書籍化に奮闘する…。

 この作品、まず音楽とロケーションが最高。
海辺の街に不似合いなメリーゴーランドの幻想的雰囲気とサックスが奏でる音色のノスタルジーがまどろむような調和を生み出している。
 そして、大胆に火を使った文字通り「熱い」逃避行の幕開け。
短編映画ならば、ここでエンドロールを流しても全然OKでは?美しすぎる。
 美しさの演出の巧さに加えて、笑える演出も冴えわたるのが今作の魅力。
特に、オリーブ売りのシークエンスにおけるテキーラの働きと会話劇が普通に面白い部分なんて、イメージされやすい「なんだか分からないフランス映画」臭を吹き飛ばしている。

 「片付け上手」なベティの常軌を逸した行動を「気狂いの所業」というレッテルを張り付けることは簡単だが、それは彼女がゾルグにとっての強烈なミューズの女神である故の行動だった。
 海辺の家の家具に対する扱いからして、明らかに彼女は「物質」を必要としていない。
欲しいものは常に手の届かない場所にあるのだが、唯一手にできそうなものこそが「小説家”ゾルグ”」。
どんなに突飛な行動をしても、ゾルグに対しては根本的な否定をしていないこと。
ゾルグのためなら本気でなんでもしてしまうという、痛々しい献身的な愛を彼女の行動から感じる。
行動はさておき、その種の愛に共感を覚える人は少なからずいるような気がする。
 彼女の提供する愛に応えてゾルグがトマトを被る様は観てるこちらとしても感極まってしまう。
この映画は本当に名シーンというか、根強く頭に残る名場面が多かった。

 それにしても『ELLE』しかり『ベティ・ブルー』しかり。
フィリップ・ジャンは強かな女を描くことに関して天賦の才を持っているなぁと痛感しました。
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