Sari

いぬのSariのレビュー・感想・評価

いぬ(1963年製作の映画)
3.8
巨匠ジャン=ピエール・メルヴィル監督の最初の傑作とも呼ばれる。
『賭博師ボブ』以降、独自のクールなタッチでギャングたちの世界を描き、フランス製犯罪映画(フレンチ・ノワール)の真の巨匠となる。本作は、メルヴィルのスタイルが完成に達した記念すべき作品。

原題の「Le doulos」(デュロス)とはフランス語で「帽子」を意味するが、同時にヤクザの世界=裏社会では「密告屋」の意味も兼ねるという。邦題の「いぬ」はそこから来ている。
物語は主人公モーリス(セルジュ・レジアニ)の犯罪と、彼の親友シリアン(ジャン=ポール・ベルモンド)が「いぬ」であるかどうかをめぐり二転三転する。

舞台はパリのモンマルトル。6年の刑期を終えて出所した強盗犯モーリスが、かつての仲間ジルベール(ルネ・ルフェーヴル)のもとを訪ねる。服役中も支えてくれたジルベールを躊躇することなく射殺し、彼が直近の強盗仕事で稼いだ宝石類や現金を奪って、拳銃と一緒に街灯の下へ埋めるモーリス。そこへ、ジルベールのボスであるアルマン(ジャック・デ・レオン)とヌテッチオ(ミシェル・ピコリ)が宝石を回収するため現れるが、モーリスはうまいこと逃げおおせる。モーリスがジルベールを殺した理由は、服役中に妻アルレットを口封じのための殺害に対する復讐であったのだが…。

登場人物を把握しておかないと、ストーリー展開についていけなくなる少々難解な作品である。
彼らの行動を突き放して描いてゆくメルヴィル特有のハードボイルドでストイックな語り口と、澄み切った映像美が生まれる。
撮影監督ニコラ・エイエによる極端に陰影を強調した、冷たいモノクロの画面は登場人物への感情を可能な限り廃する。
ジャック・べッケル監督の正当後継とするフレンチ・フィルム・ノワールの誕生といわれる。

主人公シリアンを演じるジャン=ポール・ベルモンドは、彼の他の出演作とは異なる冷め切ったニヒルな役を見事に演じている。


2023/10/17 U-NEXT
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