三樹夫

ゴジラVSビオランテの三樹夫のレビュー・感想・評価

ゴジラVSビオランテ(1989年製作の映画)
3.4
前作84ゴジラの直接の続編で、前作のリアリティ路線はある程度踏襲されたが、三枝未希、ゴジラが戦う怪獣、川北特監、高嶋兄弟、ハリウッド志向など後の平成VSシリーズの要素が揃い、平成VSシリーズのフォーマットが完成した作品である。ビオランテのデザインは良いし、何より話がポンポン進むテンポのいい編集で疑問点も覆い隠すというように、とにかくテンポがいい。

SF要素、ミリタリー要素、ポリティカル要素などを盛り込み、とにかくリアリティを確保しようとしている。ゴジラが現れたらどうするかの対応が段階ごとに既に想定されているなどにその注力を見出すことが出来る。しかし結局スーパーメカ登場だったり遺伝子工学云々ではもはやカバーできないスーパー科学などハチャメチャな部分ももちろんあるが、前述の通り話がポンポン進む編集により、良く言えば気にならない悪く言えば誤魔化されるという手法が取られている。
最後らへんに沢口靖子が天に昇っていく爆笑するカットがあるが(田中友幸Pのアイディア&こだわりらしい)、こういうのもある意味可愛げのある映画だなと思える。それにしてもゴジラと薔薇と沢口靖子のキメラってビオランテとんでもねぇな。

平成シリーズの負の特徴の1つとしてハリウッドもどきというのがあるのだがこの映画で既に出ている。これ以降さらに顕著になる公開されて数年の有名ハリウッド映画すら堂々とパクる興行師としての剛腕は頼もしいのだが、パクリ元のハリウッド映画の足元にも及んでいないハリウッドもどきは悲しくもなる。この映画の一番のハリウッドもどきはガンアクションシーンであろう。ハリウッドに比べて予算が格段に少ないとかもはやそんな問題ではなく、ただ単純にハリウッドの足元に及んでいない。というよりこの映画はガンアクションシーンだけでなく外国人の出ているシーン全てがキツい。この映画以降もハリウッド映画に果敢に挑戦して見事に失敗しているというか無邪気に真似して見てられないシーンは出てくる。ハリウッドと違う自分たちのできることを突き詰める道もあったかと思うが、それでもあえてハリウッド志向に走った挑戦を褒めるべきなのかもしれないが、平成シリーズのハリウッドもどきシーンは観ててキツい。『ゴジラvsモスラ』の冒頭のインディシーンなんて本当に酷かった。この映画のエスパーキッズが一斉にゴジラの絵を出すのは、『未知との遭遇』の一斉に空を指さすシーンが元ネタだろう。時限装置や狙撃など、この映画のゴジラ始動の一連の流れは擁護できないくらいグダグダだ。
「薬は注射より飲むのに限るぜ、ゴジラさん」などこっ恥ずかしくなる台詞しか言わない峰岸徹のキャラは一体何?ニヒルなキャラにしたいのだろうが致命的にワードセンスがなくてただのカッコつけ痛いキャラだった。ハリウッド志向でドン滑っているのが辛い。ただ高嶋兄弟のホテルマンの方こと高嶋弟のキャラは良かったのではないか。グラサン髭のおっさんが乗っていた車は三菱のスタリオンで、バブルな感じがする。

この映画のゴジラは例えると目覚まし時計で叩き起こされた中学生がお腹すいたとウロウロしているだけという、そこらへんも辛いものがある。原発でエネルギー補給など、生物感を出すというリアリティ的な肉付けが前作踏襲でなされているが、怪獣としての神秘性は下がり、ゴジラってそういうことじゃなくない感がある。
三枝未希はこれ以降も怪獣の通訳という便利キャラでしかなく、本多作品のような人間でありながらも心は怪獣の側というキャラは平成シリーズでは出てこない。怪獣に感情移入し街を破壊する様で興奮するという怪獣映画における一番大事な作家性が平成シリーズは薄い。三枝未希は、最近超能力だのオカルトとか流行ってるし、東宝シンデレラの女優入れなだめだからこういう役にしておこうという、誰一人として三枝未希に思い入れがないのが伝わる。

抗核バクテリアは完全にオキシジェン・デストロイヤーを意識しており、SF要素でオキシジェン・デストロイヤーよりリアリティのあるものにしようとはしているが、抗核バクテリアに対するドラマは薄く、表層的でただの一アイテムでしかなかったのは残念だ。あるいはハリウッドもどきのアクションをするためのマクガフィンでしかなかった。
白神博士はなんか涼しい顔して色々ご高説を垂れていたが、結構なやらかし具合でお前はもう黙ってろレベルだった。
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