深獣九

イベント・ホライゾンの深獣九のレビュー・感想・評価

イベント・ホライゾン(1997年製作の映画)
4.5
宇宙船お化け屋敷号あるいはもうひとつのクトゥルフ神話

26年ぶりの鑑賞。当時はただのSFホラーとして観に行った。とても満足した記憶があり、いまだにパンフレットを持っているほどだ。

そして本日、記憶はまったく当てにならないことを知った。なぜって、記憶をはるかに超えるものすごい作品だったからだ。懐かしいなぁ、おもしろかったし久しぶりに観ておこうかな、程度の気持ちだったのだが、これほどの恐怖とスリルを味わえるものだったとは。うれしい誤算。うれしすぎてちびってしまった。

※このあとネタバレ含みます。そして長い笑

まず冒頭感じたのは、SF映画ってやっぱいいなぁということ。宇宙船てカッコいい。
タイトルの『イベント・ホライゾン』は、行方不明になった宇宙船の名前。このイベント・ホライゾン号のデザインがしびれる。操縦室と機関室のふたつを複数のパイプ群で繋ぎ、翼の先端に寸胴型の推進装置を有する。おそらく十字架を模しており、ストーリーにも関連しているようで船尾の窓も十字だ。デザインの意味はともかくシンプルに美しく、禍々しい。
各室を隔てるドアの模様や通路、重力推進装置(グラビティドライブ)のデザインも、なんで工業製品にそんな不気味なデザイン施すのよ、と抱きしめたくなるほど私好みだ。
言葉ではまったく伝わらないので、ぜひ画像を検索して欲しい。

船に取り憑かれたウェア博士が、船のことを彼女(She)と言ってるのも気持ち悪い。


この映画は、宇宙の幽霊船譚であることを伝えたい。が、壁一枚外は宇宙空間という死の恐怖が、スリラーとしての質を上げる。
行方不明だったイベント・ホライゾン号の信号が、海王星付近で7年ぶりにキャッチされ、乗組員を助けに行くという話。発見される前に船はどこへ行ってたのか、乗組員は何を見てきたのか、というのが物語の核だ。どうやら船は宇宙の外側にある深淵にたどり着いてしまったようで、呪い船となり戻ってきた。そして乗組員のトラウマを刺激して、幻覚攻撃を仕掛けるのだ。惑わされた乗組員たちは正気を失い、自らを生贄として船に捧げてしまう。やはり精神を揺さぶる攻撃はこの世で最も恐ろしい。まあ相手はこの世のものではないが。

特にスリリングだったシーンのひとつは、最初に取り憑かれたジャスティンが、宇宙服を着用せず外へ出ようとするところ。止めようとする仲間たち、開かない隔壁、飛び出したところを捕まえようと船外の出口へ急ぐ船長。息をする暇のないほど緊迫したシーンだった。

生贄の描写もかなりいい。サブリミナルカットでしか映らないが、それでもトラウマになるレベル。ただのグロではなく美しくもあり、外宇宙の神々の美意識がうかがえる。ぜひコマ送りで見てほしい。私はそうした。

ひとつだけはっきり描写されるのが、船医のDJが解剖されるシーン。内蔵がすべて取り出され、頭と皮が天井から吊るされる。好事家も満足のビジュアルだ。


最後に言いたいのは、これはクトゥルフ神話でもあるということ。異形の神は姿をあらわさないが、ジャスティンがゲートに引きずり込まれた様子から誰か(何か)が向こうにいるのは明らかだ。宇宙の外側は人間が触れてはいけない領域であり、彼らの逆鱗や嗜虐心を刺激したことは想像に難くない。ウェア博士の発明は、人間の傲慢と神への冒涜だったのだ。


最後に。爆弾を見つけ、残り5秒と知ったときのスミスの表情を見るだけでも価値がある映画。激しくおすすめ。

狂ったサム・ニールはほんとうに素晴らしいな。
深獣九

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