ヒロ

奇跡のヒロのレビュー・感想・評価

奇跡(1954年製作の映画)
3.5
この映画は言葉で説明すればするほど陳腐になっていくが、『裁かるゝジャンヌ』と比較すると面白い。サイレント映画のジャンヌでは徹底したクローズアップの直後に字幕が入り文字がスッと入ってくるのに対し、トーキーのこちらでは嫌味なまでに続く横位置のロングショットが言葉の力を尽く奪っていく、そして着地点も死んでいくものに対して蘇るもの、描き方も結末も対照的だが結果的に死を控えた女性の宿す神秘性を捉えており、どちらもキリスト教がベースにある。ただ「右の頬を打たれたのなら、左の頬も差し出しなさい」と聖書に則り対立していた2人の父が和解するくだりにせよ、「キリスト教って何?」と聞かれたときになんも考えずにパッと出てくる言葉をそのまま映像化しましたみたいな奇跡と呼ばれるには安易すぎるラストシーンにキリスト教もどきへの強烈なアンチテーゼを感じた。祈れども祈れども1ミリも救ってくれない神なるものの不在、沈黙、怒り、だからこそそれに気付いたイエスが提示したのが愛なる概念なのである。そう言った意味で僕は圧倒的に『裁かるゝジャンヌ』を支持するし、両方を作っている事実にドライヤーへの信頼がさらに高まった。原題:ORDET 『御言葉』これを無宗教にすら到達してない平均的日本人が『奇跡』と名付けちゃってることが全てを裏付けてる。

2020-32
ヒロ

ヒロ