垂直落下式サミング

ディープ・インパクトの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ディープ・インパクト(1998年製作の映画)
5.0
地球に衝突する彗星によって人類滅亡の危機が訪れるSFスリラー。伝統的なディザスタームービーの群像劇を採用しているが、キャッチーで派手な演出がなく、どちらかというと地味な作風。そのぶん人間ドラマをじっくりと見せており、これがなかなかいいのである。
彗星の情報は、のほほんと望遠鏡をのぞく若者が発見したのが、引率の先生を介してちゃんとした天文学者にわたってタイヘンだってなって、仲間の学者に伝えようとするのだが、尋常じゃないくらい大慌てしたことで、トラックと衝突して事故ってしまう。インテリって、もうちょい冷静だと思うんだけどな。しっかりしてくれよ。
このままいくと人類は滅亡だ!タイヘンだってんで、なんとか生き残るための計画が提示される。宇宙船、飛行機、シェルター、滅亡から逃れるための種の保存計画だけれど、搭乗できる人数はごくわずか。その選考結果をめぐって反乱が起こるなど、下界では言わんこっちゃない展開が次々と巻き起こり、一方そのころ空の上では隕石を破壊しに旅立った宇宙飛行士たちの奮闘があったりと、みるものを飽きさせない二段構え。
キャストがいい。ただ者ではない雰囲気を醸し出すモーガン・フリーマン大統領は、オバマ登場前なのに彼こそが合衆国代表であると強い説得力に満ちていた。
そのほか、イヤな女役に定評のあるティア・レオーニが、上昇志向の強い女子アナに扮していて、これがなかなかにベストアクトだと思う。最後にみずから犠牲となり、父の待つ砂浜に向かうことで、人間的成長がなされた上で世界を滅ぼす圧力のなかに消えていく。
老宇宙士のロバート・デュヴァルは、男気によって隊員たちを率いて頑張り、大女優ヴァネッサ・レッドグレーブは、人の弱さをこれでもかってくらい体現する役回りを担う。
ベテラン・重鎮たちに負けじと、世界滅亡の渦中で必死に生き延びようとするイライジャ・ウッドとリリー・ソビエスキーら、当時の若手の瑞々しい芝居も必見。
侮れない。というか、ラストにかけて大きな盛り上がりをみせるドラマは、なかなかに泣かせる。
でっかい隕石を止めても、割れて小さくなった破片が降り注ぐもんだから結局破滅は止められず、ドゴゴゴゴッと1000メートルにもおよぶ大津波がっ。
隕石に特攻する宇宙飛行士たちの最後の通信、逃げられない両親が子供たちの未来を信じて運命を受け入れていくところ、生き延びた人たちに希望をみせるラストシーン。とても素晴らしいものだった。
降り注ぐ無数の屑星は美しく、地球にハルマゲドンをもたらしたのに、生き延びようと最後までもがいた者たちを祝福しているようにもみえる。
ヒューマンドラマとディザスタースリラーの共存がとれた作品って、古今東西にいかほど存在するのかしら。少なくとも、ディープインパクト級のエモーションはこれまで経験したことがない。
めちゃめちゃ好きなんだけども、リアリティのないバカ映画だって意見には同意。こんだけ書いといて、実はなんの中身もないんだよな。ソコがイイというか…。
再鑑賞しても、二年後くらいには誰が出てたのかとか、どうして隕石が来るのかとか、細々した内容はすっかりぜんぶ忘れちゃう。覚えてるのは、ついに隕石が落ちてくるらへんだけ…。
つまり、何度も新鮮な気持ちでみられるお値段以上お得映画なのだ。アルマゲドンは、ストーリーの押しが強すぎて、最初からオチまでぜんぶ覚えられちゃうのがよくない。そんなに覚えちゃったら、もう観なくていいだもん。
これは、どんなに頑張っても、しばらくすると忘れちゃうんだから!どうやって、あの流星群と津波のラストシーンに至るのか、まったく覚えてられないって、これ実はかなりスゴいことなんじゃないかな。