TaiRa

死闘の伝説のTaiRaのレビュー・感想・評価

死闘の伝説(1963年製作の映画)
5.0
暗黒田舎映画の傑作。マックスとフュリオサのいない『マッドマックスFR』みたいな映画。

北海道の美しい農村風景。緑に囲まれ土を耕す朴訥とした農民たち。スタックしたトラックをみんなで協力して押す優しさ。カラーの撮影と美しい音楽。そこから暗転、ビョンビョンとムックリの音に赤字でタイトルどーん。本編は白黒撮影。アバンからイカちぃ演出にテンション上がりますわ。木下恵介のバイオレンス・アクション。戦時下、村に疎開して来た一家の娘・岩下志麻にフラれた村長の息子・菅原文太が陰湿に絡んで来るとこからどんどん広がる地獄。最後には村全体を巻き込んだ殺し合いに発展。デマから差別が広がり、「非国民を殺せ」の合図でリンチ、人間狩りになって行く。原爆も落とされた後で、戦争に負けるのは分かっているからこそ不満の捌け口を求める「善良な」農民たち。随所にこぼれ落ちる本音が切実。一家の仲間になってくれるのは加藤嘉と加賀まりこの親子。猟銃ぶっ放す加賀まりこが格好良くて麗しい。仲間の男が加藤嘉だけで頼りないがクライマックスは格好良く見える。一家の長男、加藤剛は無力な男の代表。田中絹代、岩下志麻、加賀まりこが並んだ時の画の強さ。カメラの動きが凄い。絶え間なく動く。雨の中、男から逃げる女たちを横移動で撮るショットの反復が印象的。カッティングも荒々しい。銃撃戦の即物的なショットの連なり。岩下志麻と菅原文太が一本道ですれ違う時のスリリングな切り返しの連打。メッセージは直球、真正面から撮った人物に言わせる。木下恵介の徹底した戦争へのスタンス。ラストは再びカラーでトラックを助ける農民たち。一丸となって人を殺し、一丸となって人を助ける。人間の残酷さと優しさを見せて突き放す。
TaiRa

TaiRa