近本光司

落葉の近本光司のレビュー・感想・評価

落葉(1966年製作の映画)
3.5
イオセリアーニは、大規模工業的な生産様式の伸長によってグルジアの伝統文化が瓦解しはじめ、彼らの生活様式にめまぐるしい変化が訪れつつあるということにとりわけ自覚的にカメラを向けた映画作家であった。まるで落葉を拾うかのように、彼はいずれ消失してしまう伝統的な大家族によるワインの製造の工程のシーケンスをこの映画の冒頭に置く。男たちはこなれた手つきで葡萄を採集し、ワインをつくり、労働を終えたあとは宴を催す。このような牧歌的な光景はその後に続く本編においてはもはや見られない。あらたに職場に就職した実直な若きエリートであるニコは、自分よりも年長のプロレタリアートたちの怠惰を諫め、同僚の反感を買いながらも誤りを正していく。この国の将来はおれが背負っていくんだという気概が見えんばかりである。しかしこの映画が魅力的なのは、そのような主題を単線的に訴えるでなく、さまざまな枝葉が挿入されることだ。言い寄ってくる男たちをたぶらかし、女友達ときゃあきゃあと笑う女。黒シャツはみっともないと叱る友人の両親。いくつもの脱線や逸脱の果てに、長きにわたってそうあり続けたであろう美しき景観の中に佇む古い建物を中心に据えたショットで映画は終わる。イオセリアーニは、このショットにどのような思いを託していたのだろうかといまは考えている。