芹沢由紀子

イヴサンローランの芹沢由紀子のレビュー・感想・評価

イヴサンローラン(2010年製作の映画)
3.0
私はなんでサンローランを好きでもないのに、この映画を劇場まで観にってしまったんだろう。おそらく相当ヒマだったに違いない。

でもセレブ中のセレブだが、相当その才能と栄光と引き換えに手にしたであろう苦悩と孤独がしんどそうであった。
デザイナーって、ひとたび始めてしまうと、年がら年じゅうコレクションの新作に追われ、全く自由のない孤独な戦いを強いられる過酷な職業で、週刊少年ジャンプのマンガ家みたいな忙しさなんだ。
「前作は3500万部も売れたんだから、この新連載も期待してますよ!」なんて言われて数千人に一人しかいないヒット人材を飼い殺ししていくような出版界とたいして変わらんなファッション界も。
みたいな感想

そのうえ、ベルジュみたいな有能で仕事のできる立派な相棒(彼氏)がいても、プレッシャーに耐え切れず夜な夜な見知らぬ男に抱かれに行くとか、自暴自棄な暮らしぶり。ダークサイドに落ちまくりな非常に不安定な生活をしながらでないと、美しいものをひねり出せない悲しい生きざまは、あふれる才能を持ったものにしかわからないのかもしれない。
「ボヘミアン・ラプソディー」のフレディーを思い出させた。
マラケシュの別荘は本当に美しく、サンローランさんも輝いており楽しそうだった。

やがて彼の没後、少しずつ少しずつ、彼と集めた世界中の美しい調度品やコレクションの思い出の品々を、オークションで売りさばいていくベルジュ氏の、なんとも言えない哀愁の背中。彼は最愛の人との思い出までも整理し売りさばかねばならない自分の余生をどう思っているのだろう。
切ない。
芹沢由紀子

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