被爆者の取材に広島を訪れた週刊誌の記者とバーのママの恋愛を通じて原爆による悲劇を描いた、吉村公三郎監督のドラマ映画。
若尾文子と田宮二郎のメロドラマだとばかり思って見たので、冒頭から主人公が広島で被爆者に取材するシーンが多く出てきたのにはちょっと面食らったが、原爆の悲惨さを描いた社会派ドラマとして一見する価値のある作品であろう。メインストーリーは、田宮二郎が演じる東京から取材に来た記者と、若尾文子扮するバーのママとの恋。主人公の記者はママを好きになり、ママのほうも満更ではない様子なのだが、彼女の言動にはどこかよそよそしさが残ったまま。その秘密が原爆との関係で徐々に明らかになっていき、悲しい結末をむかえるのである。印象的なのは、原爆のために握ると砂のように崩れてしまう石を、若尾文子が田宮二郎に河原で見せるシーン。これが、感情が一気に爆発するラストシーンに生きてくる。途中で、バーのママとわけありの関係にありそうなチンピラ男性が出てくるが、このエピソードが全然活かされていないのがちょっと残念。
原爆の悲惨さだけではなく、原爆が投下されてから17年が経った1962年当時の庶民感覚が描かれている点も見逃せない。例えば、もう被爆者ネタで記事になるものはないだろうと、広島のテレビ局に勤務する親友が主人公の記者に話す場面などは、広島であっても被爆という出来事が人々の意識から薄れていく当時の世相を反映しているのかもしれない。また、一般的な被爆者のイメージと異なる、原爆で顔に傷を負った若い女性たちが(表面上だけかもしれないが)あっけらかんと生きている姿も印象的である。
なお、主人公の記者が宿泊していた新広島ホテルは、アラン・レネ監督の有名な映画『ヒロシマ・モナムール(二十四時間の情事)』でもロケ地として使われている。