りっく

ミッドナイト・イン・パリのりっくのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・イン・パリ(2011年製作の映画)
4.0
オープニングからパリという街の様々な表情が映し出される。人や車が慌ただしく行き交う早朝のパリ。雨に打たれ湿気を含んだパリ。そして、無数の明かりが灯った真夜中のパリ。そんなパリが1日の中で変貌していく姿を切り取っていくことで、唐突に時代を越えるという映画的なマジックが起こっても観客が飲み込みやすい雰囲気を作っているように感じる。

本作はタイムスリップを果たすことで、各々が想う「黄金期」を生きている文化人や芸術家が多数登場する。自分にとっての師匠であり、雲の上の存在である人物に時空を超えて会うことができる。そんな信じられない光景に目を丸くし、夢見心地ながらも大はしゃぎするオーウェン・ウィルソンが最高だ。だが、著名な人物たちの登場のさせ方が淡白かつカタログ的な喜びに終始しており、それ以上の興奮がないところは残念だ。

現実はなんて空虚なのかと嘆き、各々のノスタルジーに囚われて生きる人々。彼らは相手と自分が住む「世界」が違うことを受け入れ去っていく。その別れ際で未練たっぷりの情緒的な展開にならず、あっけらかんとしたドライな演出も好感が持てる。

だが、ウディ・アレンは最後に現実世界にマジックをかける。真夜中の鐘が鳴っても、もう「あの場所」へ向かおうとしない主人公。ポケットに手を突っ込みながら、うつむき加減で流離う男の前に、ある女性が現れる。背後のパリの灯りが幻想的な雰囲気を醸し出しながら、突然降ってきた雨に打たれ、2人は一緒に歩いていく。その光景は、後ろ髪を引かれながらもノスタルジーを断ち切った男に対する、アレンからのご褒美のように感じる。
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