宇尾地米人

サブウェイ・パニックの宇尾地米人のレビュー・感想・評価

サブウェイ・パニック(1974年製作の映画)
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ニューヨークの地下鉄車両"ぺラム123"が武装集団にハイジャックされ、17人の乗客乗員が人質として監禁された。要求は身代金100万ドル。地下鉄公安局が対応し、報道によって地上は野次馬が集まり、ニューヨーク市警にも緊張が走る。武装集団のリーダーは躊躇なく人質を殺害することを宣言、交渉役の公安局警部補はその非情さと本気を察知し、人命の安全を優先。要求通りの身代金を手配しながら、武装集団を相手に交渉を続けるが、さあどうなっていくか。

 この作品はニューヨークの怖さ、地下の怖さ、人間の冷酷さを出してきました。地下鉄職員は日々どんな環境で働いているか、どんな治安の悪さと向き合って勤めて苦労しているか、主人公の公安局警部補が東京の地下鉄職員を案内する場面があるので、そういったところが垣間見えるのもありますね。そうしていると、武装グループの冷酷がじわじわと車両を乗っ取っていき、様子がおかしいと気付いた地下指令センターが騒然としていく。しかしなんでまた地下鉄をジャックして金を要求するのか。不思議でもあるんですね。ところが、犯人の口調は極めて冷静で、知的な印象まで含んでいる。ただの異常者じゃあない。従わなければ本当に人質を殺していくかもしれない。警部補は勘を働かせ、要求を呑むことにしました嗚呼でもどうしてか、時間が無いなか、身代金の運搬車が事故を起こした。これはマズい。人質が殺される。この犯人たちに言い訳なんて通らないだろう。どうするか。警部補は咄嗟に犯人たちを誤魔化した。そして身代金を届ける指示を受ける。どうなっていくか。このあたりのスリル。交渉のサスペンス。非情が市民たちを巻き込んでいく恐怖感が高まっていきます。

 公安局警部補はウォルター・マッソー。武装犯リーダーにロバート・ショウ。この二人が交渉で対決します。その競演。「容赦なく殺すぞ」という脅迫に、従いつつも「屈してなるか」という意固地を出して、犯罪と正義の対決を見事に発しています。武装犯のメンバーにはマーティン・バルサム、ヘクター・エリゾンド、アール・ヒンドマン。この連中が、車両と人質を支配していきます。さらに、ベン・スティラーの実父であるジェリー・スティラー、マシュー・ブロデリックの実父であるジェームズ・ブロデリックらが顔を揃えて、いかにも男臭い、スリリングな犯罪劇を演じて見せていきます。監督はジョセフ・サージェント。劇場公開映画もテレビ映画もドラマシリーズも手掛ける演出家で、『ジョーズ4/復讐篇』というなんともいえない作品も監督していましたが、映画監督としては『サブウェイ・パニック』が代表作ですね。『地球爆破作戦』や『白熱』あたりも根強い人気があると思います。原作者ジョン・ゴーディにしても、この犯罪サスペンスは『ジョニー・ハンサム』とともに代表作。ここで『シャレード』や『脱走大作戦』のシナリオを手掛けたピーター・ストーンが大胆な脚色にあたり、これが上手くいったんですね。撮影は『フレンチ・コネクション』や『エクソシスト』を務めたオーウェン・ロイズマン。ニューヨーク出身なので、この舞台を知り尽くすキャメラタッチは、まさに適格。大真面目な競演のサスペンスも、ユーモアを含んだ掛け合いも、見事に撮り抜いて印象を残していきますね。演技、シナリオ、キャメラ、どれも一流揃い。どこまでも男臭くて、人間臭さまで出てきて、最後までなかなか目が離せないようなアメリカン犯罪スリラーです。
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