ボブおじさん

サイコのボブおじさんのレビュー・感想・評価

サイコ(1960年製作の映画)
4.5
〝サスペンスの神様〟として映画界に多大な影響を与えた、おそらく世界一有名な映画監督による、おそらく世界一有名なサイコスリラー😅

もしもあなたが、この映画をまだ見たことがないならば、今すぐこのレビューを読むのをやめて、何の情報も入れずにとにかく一度見てほしい。面白いことは保証する。もう何度も繰り返し見ており、何度見ても面白いのだが、やはり初回の衝撃を味わう為にも前情報無しで見ることをお勧めする。



ここから先はネタバレがあります。未見の方はご注意下さい。



映画は、ある種の2部構成とも言える。前半は、クライム・サスペンス。そして後半はサイコ・スリラーとなっており。〝あるシーン〟を境に主人公が入れ替わるという大胆な展開に驚かされる。

その〝あるシーン〟とは、時間にすればわずか60秒。だがその60秒は、間違いなく映画の歴史を書き換えた。そう、あるシーンとは、おそらく世界一有名な〝あのシャワーシーン〟だ。

物語はジャネット・リーが演じる不動産秘書のマリオン・クレインにフォーカスを定めて始まる。彼女は恋人のサムとの結婚を夢みるが、彼は別れた妻への慰謝料に縛られていて結婚もままならない。そんなある日、マリオンは顧客から預かった大金を着服し、サムの住む街へと向かおうとする。

この横領逃避行の間に警官とのやり取りがサスペンスフルに描かれたりして、前半は完全にハラハラ・ドキドキの犯罪サスペンス。初めて見た時はイメージしてたのと違うこの展開に驚いた。

しかし嵐の中、マリオンは傍道にぽつんと佇んでいたモーテルで足止めを食らう。そこは厳格な母と暮らす内気な青年ノーマン・ベイツが営んでいた。彼女は母親の介護をしながら経営者として孤独に戦うノーマンと接したことで思いを改め、金を戻すことを決意してシャワー室へと足を運んだのだが…。

その後のショッキングなシーンの衝撃で、忘れている人もいるかも知れないが、彼女はノーマンとの会話の中で、自分の行いを悔い改め翌朝金を戻しに帰ることを決意している。手遅れになる前にもう一度やり直そうと思った直後のシャワーシーンで悲劇は起きたのだ😢

グラフィック・デザイナーのソウル・バス演出による〝世界一有名なシャワーシーン〟については、多くの方が触れているので、ここでは敢えて言及しない。

映画の中盤でスター女優が演じたヒロインが退場するという掟破りの展開を60年以上も前に大胆に試み、後半は今では映画の1つのジャンルにさえなった〝サイコ〟を主人公としたサスペンススリラーに切り替えるという合わせ技。更に後半、ヒロインが姉から妹へとバトンタッチされているのも見逃せない。

既に巨匠の地位にありながら、敢えてモノクロの低予算でチャレンジしたこの作品は、今でもヒッチコック代表作であるに留まらず〝サイコホラーの原点にして最高傑作〟と謳われている。

後に作られた数多の亜流やシリーズ化された続編を見れば、その評価に偽りがないことは明白だ。恐怖の演出は、ただ残虐度を上げたり視覚的衝撃を増しても逆効果になることを確認するとともに、ヒッチコックの偉大さを再認識させられる。


〈余談ですが〉
◆ 私も昔見に行ったが、作品の舞台となった異様な外観のベイツ・モーテルは、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドにおけるツアーの名所として今でも数多くの客を呼び込んでいる😊

◆サイコスリラーとは思えない序盤の不動産屋での呑気な会話の中に印象的な台詞がある。結婚する娘に家を買ってあげる金持ちのおじさんがジャネット・リーに金の効用についてこう言っている。
〝金で幸せは買えないが、不幸は追い払える〟なかなか含蓄のある言葉だが、どうせならこう続けて欲しかった。〝ただし、盗んだ金は不幸を呼び込む〟。

◆マリオンの死体と共に新聞紙に包んだ札束をトランクに無造作に放り込んで沼に沈めるシーンで、思わず〝あ!え!金、金〟と叫びそうになった自分が恥ずかしい😅

◆この映画の成功の一翼を担ったのがノーマン・ベイツを演じたアンソニー・パーキンスの存在だろう。長身に甘いマスクの彼は演技力もあり、複雑な背景を持つノーマンを見事に演じきった。この一世一代の当たり役と映画の大ヒットで彼は大スターの座が確約されたと思われた。

その後、いくつかの映画で印象的な役を演じてはいるが、この映画の余りのはまり役に、その後何を演じてもノーマン・ベイツの影がチラつき皮肉にも「サイコ」のシリーズ化でそのイメージが固定してしまった😢

アンソニー・パーキンスは「サイコ」のノーマン・ベイツとして映画史上に永遠に名を刻むと同時に、生涯そのイメージに縛られることになってしまった。