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サイコのmaiのレビュー・感想・評価

サイコ(1960年製作の映画)
4.4
脚本しかり演出しかり演技しかり…どことっても素晴らしいです!

あんだけ母親の存在を匂わせておいて、そしてあんだけ母親を気遣う息子の姿を見せておいて…結末は意外というほど意外性に富んでるわけでもないのですが、そういうことか!と合点がいくものでした。
そこにノーマンのストーリー性があるわけでも、何か大きな同情心が湧くわけでも、教訓があるわけでもないのですが…ラストシーンの彼の心の中で喋り続ける母親のその話す内容とノーマンのニヤリと笑う感じが最高に不気味で、いい意味で余韻の残る映画でした。

あまり多くの映画(特にオールドムービーは)を観てるわけではないので、あそこがあの映画でオマージュされてるところ!と解説読んでもちんぷんかんぷんなのですが、シャワーシーンは印象的ですし、階段から探偵が転がり落ちるシーンもなかなかです。あれ、どうやって撮ったんだろう?と今でも疑問です。当時にしてみればかなり画期的だっただろうし、今ほど撮影技術も機材も選択肢少ない中であの高さからの撮影、さらに人が転げ落ちてるって結構どころか相当に難易度高いですよね。
あとは演出ですね。
ノーマンの顔に影ができる感じとか、シャワーシーン後の見開かれた目やノーマンの覗き目などなど…とにかく印象に残るシーンや表情が多かったですし、クライマックスにかけてはハラハラと相まってどのシーンも克明に覚えてるし、またそのシーンをすぐに振り返りたくなる中毒性があります…最高潮はなんといっても妹のライラが部屋を物色して地下室にたどり着くところですよね。おぞましい顔が待ってるんだろうなと身構えてはいましたが、だからこそ肩に手を置いた後に振り返ってほしくない気持ちでいっぱいでした。絶対怖いに決まってますもん。笑
そして背後からの包丁構えた女装姿のノーマンですよね、絶体絶命!でちゃんとサムが助けに来てくれる。ノーマンの悶える姿が、その数十秒前の飄々とした感じを装った姿とは似ても似つかないもので怖すぎました。まさに、幽霊云々ではなく人間性に対する恐ろしさです。「エスター」「IT」を観たときにも思ったのですが、意外と幽霊とかの類って信じてない身からすると、演出面で「きゃー」と驚かされはするけれど、怖いかと言われると「別に」なんですよね。ですが、人間によるサイコパス的犯行ほど背筋がゾッとする恐ろしさってないように思えます。真のホラーはサイコパスだと実感しました。
それを実感したのはなんといってもラストシーンです。医者の長めの説明(端的にいってしまえば、ノーマンは二重人格であり、今回の一件で母親に乗っ取られたとのこと)の後に、母親の声とノーマンのニヤリ顔で幕を閉じるんです…追い討ちかけてきてますよね、しかも情状酌量を狙ってるんです。殺人鬼が野に放たれる危険性を暗に示しながらの幕引きで、いい意味で後味悪いのが良いです。

物語のスタートは大金を手にする(結構強引なスタートでした)ところだったのに、いつのまにか旧道のモーテルで起こる不気味な事件へと転換していく中で、クライマックスに向けてのハラハラが募ってく…すごく面白かったし、何回も観てしまう気持ちがわかります。
しかし、行き当たりばったりな殺人のはずなのに、意外と完全犯罪に仕上げられてしまうところには感心してしまいました。笑
ミステリーではないので、謎解きもなにもないのですが、最後に彼の行動原理を教えてもらうと全てに合点がいって、さらに怖さまで倍増する。
最高のエンターテインメント映画(内容は連続殺人事件なのでエンターテインメントって言ってしまっていいのかは図りかねますが)です。
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