まや

お茶漬の味のまやのネタバレレビュー・内容・結末

お茶漬の味(1952年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

凄く凄く好きだった。自分の観たいものがまさに画面に映っていく感じで最後のお茶漬けのシーンは感動してしまった。

個性的で自由で自分の意志を持った様々な立場の女性が出てきて、女性数人で繰り広げられる一つの部屋での会話のシーンはどれも好きだった。また、女性の部屋含め、女性が出てくるシーンはとても洋風な印象を受けて日本であることを忘れそうになった。(これが育ちの良さに繋がる感じがした)

結婚すると自由がなくなる。好きな時に出かけられないし、出掛けたくても嘘をつかないと行けない。友達の知恵を借りて嘘ついて温泉旅行に向かう冒頭。

お見合いをさせられそうになっている姪っ子はそれを見て、妙子になぜそんな嘘をつかないといけないのか本当のことを言えばいいのにと言ってきたり、自分は外で旦那さんの悪口なんか絶対言わないわと言ってきたりする。

だから、お見合いすると、この叔母のようになると思っている感じで、自分で旦那さんを見つけようとする。1人で映画に行ったり、パチンコも楽しそうにしたりするこの姪っ子好きだな〜と思った。(最後のシーンもとても好き〜男女の恋の予感で終わる感じと場所と構図が美しいな)

この軸となる夫婦はお見合い結婚でお互いに好きになって結婚したわけではない。だからこそ、互いに合わないことばかり。タバコの種類やご飯の食べ方等、その人が築き上げてきたものがまるで違うから上手くいかない。妙子は自分の思い通りにいかないと、と結婚した後も思っているから、この自分では理解できない行動をされるのが嫌なのだ。(他人と生きていくのって時代問わず難しいよなと思った)

だからずっとムクれている感じで、旦那が海外に仕事で旅立つ時でさえ、そばにも居ないし、見送りにも来ない。電報を無視している。旦那が旅立った数時間後に帰宅するのだ。旦那がいない旦那の部屋で1人佇む。(この前でも旦那自身が自分の部屋で1人佇んでいて、この対比が1人であるということをこちらに強く伝えてくる)自分の部屋でも何かを考えるようなどこか寂しそうな顔をして横になっても眠れないようで。そんな時旦那が帰ってくる。飛行機が壊れてしまったからまた明日になったと。ここからの流れがもう涙が止まらなかった。

夜中だからと2人で夜食の準備をする。台所に2人で入ってそれぞれが一緒にご飯の準備をする、それを一緒に運んで食卓に向き合って食べる。美味しいと言い合いながら。ここで妙子は涙しながら突然いなくなったことを謝る。そして、気楽な関係で自分もいたいと言う。これを聞いてとても嬉しそうなでもそれを顔に出さないようにしながらもういいよと許す旦那さん。自分の希望がわかってくれることはありがたいことだと言って、また2人でご飯を食べるのだ。なんて最高なシーンなんだと思った。この帰ってきてからのシーンはお互いが思っていることをそのまま話しているように見えて、ここから関係を築き上げていけるような予感がこのご飯のシーンでとても伝わってくる温かいシーンだ。

お茶漬けの味に夫婦の関係を説くなんてこのほっとする感じが夫婦間でも味わえたらこんな幸せなことはないよなと思ったし、このシーンはお互いの歩み寄りのシーンだなと強く感じた。庶民の味を食べたり、言葉できちんと伝えたりする妙子と、台所に入って準備を手伝い、こちらもきちんと言葉で伝える旦那。そこからの一緒に食べる美味しいねは繋がりのあるシーンだし、結婚をしていないけどこういう夫婦になりたいなと強く思った。(見てくれより頼もしさというか温かさだよなと思った)

また、姪っ子の節子のラーメンのシーンも好き。すごく美味しそうだし、誰かと食べる温かいご飯と、それを美味しいと言い合える関係ってすごくすばらいものなのだと思った。人との関係を作るうえでの1番の幸せってこれなんじゃないかなと思わせてくれた。

結構した夫婦のその後について描かれる作品ってそう多くないからとても心に染み渡ったし、夫婦ということでなく関係性について理想の形を魅せてくれたのでずっと最後のシーンは感極まって泣いてしまった。

また、カメラの構図や部屋の中身などはとても美しく、この部屋も物語や登場人物たちの置かれている状況によって物悲しく見えたり、温かく見えたりと同じ部屋でも違う印象を受けるのも不思議で、物語においてとても重要なものとしてずっとそこにあるなと思った。

小津監督作品はいつも、現実の中の人間の優しさ、辛さ、面白さが伝わってくる素晴らしい作品ばかりで、この様な素晴らしいものを作ってくださりありがとうございますという気持ちになる。時代が変わっても人間の根本にある普遍を描いているからか、全然古さを感じず、今を生きる自分にも深く染み渡る作品だな改めてと思った。
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