TA0ZI

ダンサー・イン・ザ・ダークのTA0ZIのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

●Palme d'Orということで観ることにした。内容紹介やレビューを一切見ていなかったので、哀しい映画であるとは思わなかった…こたえた…

●レビューでは、「鬱」「気分が悪くなる」「不安定」「暗い」「怖い」との感想が多いが、冒頭60分はそのようには感じなかった。プロレタリア文学として見ればむしろ明るく、色彩についても、モノクロ映画に色が入ったようだなと思っていた。音楽や歌詞についても、暗いミュージカルに慣れていればあまり気にならない。「鬱映画」にするためにそのような手法を用いたのでもなく、他の狙いがあるのだなあと感じた。

●ミュージカルパートも賛否両論となっているが、これは歌以外をあえて「下手」に演出しており、それこそがポイントかなと思った。セルマにとって唯一の救いとなる「ミュージカル」さえ稚拙・不格好・今ひとつであるところに本当の救われなさがある。才能があったらこのような展開にはならない。

●一方で、歌・リズム・音はよかった。どのトラックも完成度が高かったが、やはり「最後から二番目の歌」が最もグッと来た。ドラマパートも音響がいい。

●Björkはすばらしかった。

●セルマは失明前の時点で既に絶望を知っているように見える(アメリカ渡航前にも苦難があったと思われる)。だからこそ、希望に満ちたミュージカルに惹かれていたのだろう。ミュージカル(から影響を受けた性格)の「せいで」不幸になったと考えるか、ミュージカルの「おかげで」それまで幸せに生きられたと考えるか、はたまたミュージカルとセルマの人生は交わることがなかったと考えるか…

●ミュージカルが好きという設定により、夢見がちでぼんやりしていること、人を完全に信用してしまうところ(生涯をかけて貯めたお金のことを話すほどに)、ご都合主義であること(ミュージカルの歌詞からうかがえる)は不自然に見えない。映画が観る者はセルマを嫌いになりきれない。

●セルマに欠けたところがなければ同情して憤ることもできるが、そうではない。人物造形がうまい。ジーンにとって何がいちばん「幸せ」かはジーン本人にしかわからないし…セルマにとっては母親としてのベストを尽くしたということだと思うが…

●観客にとってはバッドエンドでも、セルマにとってはハッピーエンドなのかもしれない(ジーンの目が治ったのかどうか知る前に逝ったこともあり)

●こどもを産むという決断をした理由が、映画の最後の方で明らかになったのもよかった。

●David Morseの演技がよい。嘘をついたことも金を盗んだことも堂々と認めるのか…圧倒的にリアル。ビルが妻に白状していたら少なくとも死なずには済んだだろうが、彼にはそれができなかった。人間の複雑なところ…

●サミュエルという人物のことはよくわからなかった。なぜセルマに最後タップダンスのシーンを観せようと(聴かせようと)したのか。

●女性刑務官のセルマへの理解の深さに少し救われた気持ちになった。
TA0ZI

TA0ZI