櫻イミト

ゴルゴダの丘の櫻イミトのレビュー・感想・評価

ゴルゴダの丘(1935年製作の映画)
4.0
トーキー史上初めてキリストの受難を描いたフランス映画の超大作。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の忘れられた傑作。

キリストのエルサレム入城からゴルゴダの丘での磔、復活までを描く。。。

これほどスケールの大きな映画だとは思っていなかったので驚いた。当時のフランスは詩的リアリズム全盛期、その中心メンバーの一人デュヴィヴィエ監督の初期作なので、もっとこじんまりしたものを想像していたが大間違いだった。

セットのスケールは巨大でエキストラの数も膨大。サイレント期の超大作キリスト映画、デミル監督の「キング・オブ・キングス」(1927)に引けを取らないスペクタクル史劇だった。※本作と同年にデミル監督は史劇大作「十字軍」(1935)を撮っている。

本作の特徴はキリスト受難を群衆心理の視点で描いている事。イエス本人よりも群衆の悪い噂や罵詈雑言など集団ヒステリーの膨れ上がりを大量エキストラを用いて描写している。ここで目を見張るのがデヴィヴィエ監督の得意とする空間描写力で、後の「巴里の空の下セーヌは流れる」(1951)で絶賛される街の立体的な描写が、本作では群衆込みで全編に渡って発揮されている。

群衆によるキリスト教弾圧の狂気の描写が、4年後にフランスと開戦する隣国ナチス・ドイツの全体主義の脅威を反映しているのは間違いないだろう。本作はフランス・キリスト教会からの依頼で制作したようだが、尋常ではない熱量で描かれる大衆描写は聖書に書かれていることではない。一般的にキリスト処刑の責任は当時のユダヤ教大司祭長カイアファにあるとされているのを、本作では大衆全体の責任だったと訴えているのだ。

つまり本作は、当時のフランスでは珍しい社会派の大作だったと言えるのではないか。デュヴィヴエ監督には「舞踏会の手帖」(1937)にしろ「巴里の空の下セーヌは流れる」にしろ社会批評的な側面が感じられる。

ヌーヴェルヴァーグのアンチ活動により貶められたデュヴィヴィエ監督だが、個人的には真面目で悲観的な作風は好み。引き続き追いかけてみたいと思う。
櫻イミト

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