Ryan

風が吹くときのRyanのレビュー・感想・評価

風が吹くとき(1986年製作の映画)
4.4
風が吹くと。


ストーリー
イギリスの片田舎に住む老夫婦。世界情勢が深刻化する中、夫は政府が出した核戦争に対するパンフレットに従ってシェルターを準備し始める。そんなある日、事件が起こる…。


監督 ジミー・T・ムラカミ
原作 レイモンド・ブリッグズ
音楽 デヴィッド・ボウイ


クリストファー・ノーランにも影響を与えた傑作。今作がなかったら今の「オッペンハイマー」はなかった。
「ジェントルマンジム」の続編的立ち位置。


本当にすごい作品。
ホラー映画より怖くてトラウマになるが、かなり表現は柔らかい。
表現を柔らかくしながらも会話のセリフ、音楽の使い方、グラデーションによって徐々に蝕んでいく様をブラックジョークの様に描く。しかし、それがブラックジョークとも捉えられない作りが皮肉となっている。

こうでもしないと、当時の"原爆恐怖"の英国人は見れなかったかも。見なかったのではなく、怖好きで途中で観るのをやめたかもしれない。
だから、あえてアニメーションでおどろおどろしい雰囲気を作りあげた。
実写だとこうはいかない。演出の仕方も物語の仕立て方も何もかも違っていただろう。
だからこそこの作品がどれだけ凄いかがわかる。


監督のジミー・ムラカミも長崎原発で親戚を亡くしている。それを知っているからこそ、原爆の恐ろしさと政治情勢を掛け合いながら、時間軸は1980年代なのに、あえてタイムスリップしたかのような演出、セリフにしたのだろう。
その表現方法は見事で、私は一昔前の物語であり"今"の物語でもあると感じた。


海外の人からすれば、原爆などはその程度のものなのかもしれない。
「当時は科学技術がなくて助からなかった」
「日本人は初動を間違えた」
しかし、もし英国に原爆が落ちたら?
英国人は紳士だ。慌てず乗り越えるだろう。
しかし、それが命取りとなることも知らずに…。そこの面白おかしさと自惚れの描き方が怖すぎるリアル感を与えてくれる。
だからこそこの映画は英国人に衝撃を与えたのだろう。


この作品は本当に素晴らしく、恐ろしい。
"映画好き"なのであれば、一度は観ても損はないはずだ。
Ryan

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