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安藤組外伝 人斬り舎弟のisopieのレビュー・感想・評価

安藤組外伝 人斬り舎弟(1974年製作の映画)
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2015年3月27日、新文芸坐。

果てしなく堕ちてゆくやくざを描くなら、本来は『仁義の墓場』の渡哲也のようにひとりの主人公を徹底的に追うか、『実録・私設銀座警察』の渡瀬恒彦のように群像劇に対置される単独の主人公として描かれるべきが、安藤昇を立てざるをえないためにその回想形式がとられ、映画としての弱さは否めない。

しかしそれを割り引いても、仲沢半次郎撮影による文字どおり「青い世界」で繰り広げられる暴力が暴力を呼ぶ荒々しい描写とひんやり褪めた視点が衝突して、いわば「低温の火花」を散らすさまは魅力的である。

そしてこの作品の片桐夕子のぞんざいな扱いをみてもわかるように、中島貞夫は基本的に女優に興味のないひとである。中島にとって女優とは藤純子であり、あるいは母性の象徴としての岡田茉莉子であり、さもなくばおばはんのバイタリティーとしての松井康子なのだろう。

東映東京撮影所に招かれた中島貞夫は京都とちがってなじみの大部屋俳優がいないために、彼らのアップや芝居を細かく拾うこともなく、もっぱら画面に顔が映ったときの効果だけで選んでいるようだ。なかでは三重街恒二があの御面相を買われてか、「三時間もあれば、謙さんの生首をここにドンと置いてみせますよ」と大口を叩く役をもらっているのがおもしろい。

映画のラストは初井言栄の台詞で締めくくられるが、同じ場面に安藤組の舎弟として誠直也がいる。そうか、『朽ちた手押し車』の母と息子はここですでに共演というか顔を合わせていたのだな。
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