カリスマ的な独裁者としてドイツに君臨し、悪政を振るって国内外の無数の人々を苦しめ死に追いやったアドルフ・ヒトラー。戦局の悪化により追い詰められ、ヒステリックに激昂し日に日に疲弊していくヒトラーに往時の力は残っておらず、その姿は見ていて痛々しいものがある。
ヒトラーに扮するブルーノ・ガンツは狂おしいほどの熱演ぶりで、インパクトは強烈。彼の後に本気でヒトラーを演じられる俳優はもはや現れることがないのかもしれない。
自らの敗北を認めて愛人と共に潔く自決するヒトラーの死よりも、その後に引き続く忠臣たちの末路がより悲劇的に胸に迫ってくる。とりわけ時間をかけて綿密に描かれるゲッベルス一家の姿は、虐政に加担する強者とそれに巻き込まれて命を奪われる弱者という戦争のむごたらしさの縮図のようで、最も強く心に焼きついて残っている。
また秘書へのインタビュー映像を入れて完全な劇映画の形を保たなかったのは、当事国としての責任感と問題意識の強さの表れだろうか。
ヒトラーたちの悪行についての直接的な描写はないし、史実や登場人物の予備知識も頭に入れておかないと分からない部分も多い。十分に学んだうえでまた見直してみたいと思った。