蛸

飾窓の女の蛸のレビュー・感想・評価

飾窓の女(1944年製作の映画)
4.3
ショーウィンドウに飾られている女性の肖像画に魅入る主人公。そこに肖像画のモデルの女性が現れる。肖像画の隣にモデルの女性が映り込んだショットが鮮烈だ。
主人公はこの女性に関わったことで犯罪に手を染めることになる。ふとしたきっかけで安定した生活が崩れ落ち、主人公を取り巻く世界は様変わりし、価値観は転倒する。平和な日常から薄皮一枚はいだら闇が垣間見える感覚。この底の抜けた感覚こそがフィルムノワールだ。
この映画において肖像画は2つの世界を媒介する役割を果たしている。そもそも絵画に惹かれていた主人公がそのモデルに惹かれていく展開こそが転倒的だ。犯罪心理学者の主人公は、普段は犯罪者を観察する側の人間だ。しかし自身が犯罪に手を染めた時、その関係は逆転する。事が起きる際に主人公がメガネ(観察者の象徴)を外される展開は示唆的だ。
犯罪者となってしまった主人公の犯罪がバレるバレないかのサスペンス。警官の姿が映るだけでドキドキさせられる。世界が一変してしまった感覚が恐ろしい。
過去の平和な生活を象徴する、主人公の家族写真が上手く使われていたりと、小道具の使い方にも隙がない。もちろんラングだけあって影や鏡の使い方も素晴らしい。
オチは酷すぎるが、ヘイズコードの時代背景を鑑みるとしょうがないことなのか…個人的にラストの5分は見ない方がよいです。
フリッツラングのアメリカ時代の代表作にして、フィルムノワールの始まりを告げる作品群の1つ。随所の演出からやっぱりラングはすごい、と思わされますね。
蛸