猫脳髄

死霊の罠の猫脳髄のレビュー・感想・評価

死霊の罠(1988年製作の映画)
4.0
「日本初の本格的スプラッタ・ホラー」をうたうだけでなく、内容の伴った実によく作り込まれた作品である。公開された「1988年」はJホラーにとっては記念すべき年であり、ビデオ作品の「邪願霊」(石井てるよし)が製作されている。

その後、Jホラーが亡霊系作品の謂いとなり、わが国でスプラッタ系作品がついにメジャーとなりえなかったのは、同時期のいわゆる東京・埼玉連続幼女誘拐事件の影響など、「時代の綾」としか言いようがない。本作がスプリングボードになる可能性は十分あったのだ。

深夜番組に送りつけられたスナッフ・ビデオの真偽を探るべく、撮影場所と思しき廃墟に誘い込まれた小野みゆき(驚愕の表情が誰よりも怖いのが良い)ら男女5人の番組スタッフが、謎の殺人鬼につけ狙われるという基本構造こそシンプルである。しかし、廃墟を「死の機械」に作り替えた殺人鬼の手口は、当時の海外作品ですら追随を許さない。さらに、破綻を恐れないアクロバティック(すぎる)な犯人像が強烈な印象を残す。ジェームズ・ワンの近年の作品でも同様のオチが用意されていたことを鑑みると、アイディアにおいても相当の先行があったことがわかる。

また、今で言う「セクシー女優」を起用し、濡れ場に続く残虐性を強調する手法や、謎の殺人鬼というミステリ要素を盛り込むなど、実はイタリアン・ジャッロの雰囲気も感じさせる。監督・脚本とも日活出身という点も見逃せない。1980年代に日活が製作したポルノ作品で、現在「和製ジャッロ」と呼ばれる系譜に位置づけられるかもしれない。

つまり、本作は一時の徒花ではなく、正当に再評価されるべき名作と言ってよい。マイナーなマニア向けとおろそかにしたくない。

※わが国の場合、「時代劇におけるゴア表現」を考慮に入れなければならない気がしている。有名どころでは黒澤明「椿三十郎」(1962)。さかのぼればもっと事例は見つかるかもしれない
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