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ある結婚の風景のnabisukoのレビュー・感想・評価

ある結婚の風景(1974年製作の映画)
4.4
なんとも不思議な話だった…… ただ暗いだけの残酷な離婚話、ではなかった。
3話まではひたすら暗く一方的で惨めだったけど、4話以降は互いにエゴを見せ始め、自立しようとしたり、せがもうとしたり、立場が逆転したり、すっかり丸くなったりする。
女の母は夫を亡くし、「円満だったけど本音をぶつければ良かった」と空しく語る。それを聞いて、暴力沙汰になるほど喧嘩したのがむしろ良かったのかと考えさせられる。あのまま二人で殺しあって死ぬのかとすら思ったのに。
生活を共に送ることが困難なだけであって、二人は初めから最後までずっと夫婦だったのかもしれない。互いにいくら浮気をしてみても、その繋がりは決して他人ではあり得なかった。
二人とも「本当の自分を知って」なおかつ一緒にいられる関係性というのが重要で、エゴに忠実な自分でいるためには恋愛や浮気は必須、地味で当たり前の生活を継続するのはもっての外、だから一緒には暮らせない。互いに「自分は何を求めているか」を第一にしながらも理解者は必要。サルトルとボーヴォワールじゃん。哲学を突き詰めて辿り着く先は誰しも同じ?
けど面白いことに最後の最後で女は悪夢を見て、男や子供が手に届かなくなる光景を絶望的に語る。やっぱり不安なんだね。私は誰も愛したことも愛されたこともないわと。男は抱きしめながら「よく分かるよ」と囁く。人生は不安なんだ、けど確かにここに愛があるよ、僕らはまずいやり方で互いを愛してるだけだよと。女は納得したように笑い、眠る。人生にはよい形などなく、ただ運命に流され、いつかは死ぬしかないのだった。

上映後に離婚率が増した問題作とのことだが、この意外な結末を見て思うに、彼らは前向きな離婚をしたのかもな。私たちも離婚して仲良しになりましょうよ、互いに自由に恋愛して、時々会って慰め合って、きっと世界一の理解者になれるわよ、と。
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