トムヤムくん

リリイ・シュシュのすべてのトムヤムくんのレビュー・感想・評価

リリイ・シュシュのすべて(2001年製作の映画)
4.8
かつての親友からいじめにあっていた蓮見雄一は、リリイ・シュシュの歌声だけが唯一の救いであった。彼は、自らが主宰するファンサイトを通じて、多くの人と心の痛みを共有する…。

本作は中学生のコミュニティが舞台なのだが、「いじめ」「万引き」「カツアゲ」「援助交際」「レイプ」「自殺」と、これでもかと重苦しいテーマをいくつも扱っている。そのため、かなり人を選ぶ作品になっていると思うのだが、自分には信じられないほど突き刺さってしまった。

思春期特有の荒々しくて切ない雰囲気が物凄くリアルで良い。少年少女たちの不安定な空気感と、田舎の静かな田園風景が、気持ち悪いほどによく似合う。美しいけど汚い。汚いけど美しい。生まれてこの方、一度も感じたことない「何とも言えない」虚無のような感情が一気に押し寄せてきた。今までこんな映画は一度も観たことがない。邦画だけに飽き足らず、全世界の映画において唯一無二の作品だと思う。

映画内では、キーボードを打ち込む音とともに、ファンサイトで語り合う信者たちの言葉がたびたび現れる。そのひとつひとつに訳の分からない厨二病精神みたいなものが掻き立てられて、何度も金属バットで殴られたかのような衝撃が全身に走る。そして身体の中で眠る「まだ自分でも知らない感性」みたいなものに、ずしんと訴えかけてきた。まさにこの作品こそが、自分にとっての「リリイ・シュシュ」であり、「エーテル」なのかも知れないと感じてしまう。

まだまだ言いたいことは山ほどあるけど、自分の拙い文章と乏しい語彙力では、この作品の魅力の多くを語ることはできない。もっと深い何かがあると頭のどこかでは分かっていながらも、表面的な言葉しか思い浮かばない。代わりに、『フォレスト・ガンプ/一期一会』のキャッチコピーから引用するならば、「この名作に飾る言葉は要らない…」。そんなところだろうか。

《投稿者:トムヤムクん》