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死神の谷/死滅の谷のFrapentaのレビュー・感想・評価

死神の谷/死滅の谷(1921年製作の映画)
4.2
フリッツラングのセンスが光り始めていると実感した作品。「愛する人をいたら死の世界に入ってしまって奇異な体験をする」というストーリーも飽きずに観られて面白かった。


内面の世界を描こうと試みる「ドイツ表現主義」の代表作の一つ。今となっては一般的な描写だが、当時としては画期的だったようだ。フリッツラングが本格的に内面を描くのは今作が最初だろう。(前作「さまよえる絵」ももしかしたらちょっとあったかもしれない。ドイツ語しかなくてストーリーが何もわからなかった)
ドイツ表現主義の最初期の作品がカリガリ博士(1920)で、この作品も年代はほぼ同じだが、精神世界を独特の造形で一切抵抗なく描いている。(カリガリ博士もすごいけど混沌としている。今作はどちらかといえば美しさにフォーカスされた精神世界という印象。)なんといってもこの作品が描いているのは今も昔もずっと議論の絶えない死の世界。そこにフリッツラングのエッセンスが加えられることで、惹きつけられる映像美を見せてくれた。

今作はフリッツラングのフィルモグラフィにおける転換点だと思う。前作まではまだ自然の地形に縛られているようだったが、今作から学生時代に習得した建築や美術のセンスを存分に生かし、不気味でありつつも美しいオブジェを自ら製作し、数多く映し出しているように感じる。
これはかの有名な「メトロポリス」に明らかに通ずる作品である。

そしてストーリーテリングも上手くなっているとわかる。まだ無声映画ではあるが、フリッツラングもわかってきたのか、会話テロップのテンポがなかなかいい感じになってきて過去作より読みやすくなった気がした。
ストーリー自体も面白くて、愛する人のためならと主人公が他人に死を願っていて、(客観的に)悪魔になっていくのが恐ろしい。だが彼女にとっては愛する人が自分にとっての"世界"だから、また会うためなら他人を気にする余地なんてないのだ。彼女のために死んでくれる人はいるわけがなかった。この主観にフォーカスされた状況ももしかしたら「ドイツ表現主義」の特徴といえるかもしれない。
その後色々あったが、結果的に終盤での彼女の目的を達成するための選択が自死なのが熱い。ライアンジョンソンの「ルーパー」でも思ったが、自死という選択ができる主人公は決まって強くて、そんな彼らが倒れて終わるのを見ると諸行無常感が漂って心に残る。僕はこういうストーリーがすごい好きだし、今回も刺さった。


気まぐれで始めたフリッツラング特集だが、映画黎明期やドイツ表現主義など、変化が沢山あって結構面白く観ている。
今作はオススメできる。
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