YukiSano

007 スカイフォールのYukiSanoのレビュー・感想・評価

007 スカイフォール(2012年製作の映画)
4.1
007を解体したアート映画。

現代におけるジェームズ・ボンドを英国と重ね合わせることで脱構築を図っている。

年老いたブルドッグに象徴される英国諜報機関を家族として描き、母を中心に兄弟が殺し合うというシェイクスピア劇や聖書にも通じる荘厳さも持ち合わせている。まさにサム・メンデス監督がアメリカンビューティーで行ったことと同じことだ。

故に、序盤は定石通り世界各国の異国情緒溢れる場所を巡るが、最終的に辿り着くのは英国という「ホーム」。そこはスコットランドの荒れ果てた土地。ボンドの故郷でもあり、英国の歴史に焼き付けられた原風景なのだろう。

序盤から落下(フォール)するボンドは、その後も何度も落ちそうになるが敵を高所から叩き落として自らのスカイフォールを防ぐ。しかし朽ち果てた生家に辿り着いた時、彼は氷の池に落下する。一度ならず何度も死んだボンドは水面から脱出し生き返る。

そして教会で自分の影の分身であり、英国の亡霊である兄を殺す。しかし代償として家は焼け、家族は崩壊する。女王陛下の象徴は失われた。残されたのは年老いたブルドッグだけ。

全てを失っても残る、最後の魂。

この作品公開の後、英国はEUを離脱した。本当の自分自身に戻るためなのだろうか?

男尊女卑の象徴であり、古き英国の亡霊は、今年最後の勇姿を見せてくれる予定だ。「死んでる暇はない。」というタイトルで。

そこには英国の未来が描かれているのだろうか。それとも「死」か。

英国そのものとなった007の行く末を何時までも見ていたい。そんな果てない気持ちにさせる007最高傑作でした。
YukiSano

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