TaiRa

妻は告白するのTaiRaのレビュー・感想・評価

妻は告白する(1961年製作の映画)
5.0
最後まで掴み切れない若尾文子が凄い。ファムファタルという概念に対する批評。

登山中の死亡事故が妻による殺人か否かを探る話。若尾文子演じる薄幸の未亡人が果たして信用出来るのかどうか、彼女の絶妙な芝居によってはぐらかされ続ける。川口浩の視点から見れば彼女はファムファタルであるが、では男を狂わす女という立場から見れば世界はどう映るか。裁判中に回想される死んだ夫、小沢栄太郎のなんとまぁ醜いことよ。サディスティックに妻を追い詰めるグロテスクな夫を見事に演じていて素晴らしい。酷い男だが、どこかこの男にも悲哀を感じる辺りが上手い。終盤のマンションでのやり取りにおいて、この女は被虐者の立場に回り込んで男を追い詰める様な人間なのでは、と思わせる演出も巧みで、その直後の川口浩の職場にずぶ濡れでやって来る若尾文子のヤバさに説得力を持たせる。あの場面のただならぬ雰囲気は出色。最後の最後まで判断を付けさせない話運びが面白く、視界を覆っていた疑惑の霧が晴れた時、もう取り返しのつかない場所に立っている残酷さ。バッグで顔を隠す若尾文子の仕草が端的に作品を象徴する。若尾文子の証言にある「苦しくて縄を切った」も象徴的。増村保造の女への共感と男への厳しさは現代的。
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