櫻イミト

昇天峠の櫻イミトのレビュー・感想・評価

昇天峠(1951年製作の映画)
3.5
私は狭義のレアリスムは好きではなかった。重要な結果をもたらさないシーンを挿入したい誘惑に駆られていた――ルイス・ブニュエル

「エル」(1952)の前年に作られた乗り合いバスのロードムービー。

メキシコの海沿いの田舎町。容態の悪くなった母親は自分の遺産を死んだ長女の子供に譲りたいと願い、信頼できる三男のオリベリオに市街地まで遺言状を作りに行ってきてほしいと頼む。その日オリベリオは結婚式を挙げたばかりだったが、母の願いを聞き入れ唯一の交通機関であるオンボロバスに乗り一昼夜かけて市街地に向かうのだが。。。

ブニュエル流のブラックなユーモアが散りばめられたロードムービーで、そこはかとない悲喜劇が楽しめた。市街地へ行くには険しい”昇天峠”を越えなければならないが、次から次に小さな邪魔が入りスムーズに進むことが出来ない。人付き合いや誘惑、子供の誕生と死など、本作には人生に起こる様々な事例と受け入れるしかない運命が描かれているように感じた。

ジャケット写真は主人公が観た夢のシーンで、峠の頂で母が剥いているリンゴ?の皮を主人公と誘惑女が咥えているところ。監督によれば台本にはなく即興で入れたシーンとのこと。最終パートでは、病の母と誘惑女の因果関係が示唆されることから、リンゴの皮はヘソの緒の暗喩に受け取れる(ブニュエル監督は“暗喩は意識していない”とはぐらかしている)。

強烈な毒はないが、ブニュエル監督の“ぶっちゃけた感じ”が滲み出ている人間ドラマの佳作。
櫻イミト

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